ペルーの極左武装組織センデロ・ルミノソ(Sendero Luminoso、“輝ける道” の意)の、姿を見せることのない党首アビマエル・グスマンを警察が追います。1992年の物語です。原題は “La hora final”。
「この国に未来はない」と考えたペルー国民の国外移動が相次ぐなか、葛藤しつつも命がけの潜入捜査を行った男女ふたりの警官を中心に描いています。実話に基づいているそうです。
1980年、アビマエル・グスマン率いる “輝く道”(センデロ・ルミノソ)がペルー政府に宣戦布告。12年後、ペルーは崩壊寸前に。犠牲者と経済的損失は甚大だった。その中、警察は組織の指導者の逮捕に乗り出した。
映画冒頭の説明文
主人公の男性警察官の名はカルロス・ザンブラーノ。かつては左遷され過疎の村に赴任していました。リマ勤務になって以降は過労気味のようです。離婚した妻との間に息子がいて、彼女と現在の夫は息子を連れて国外への脱出を考えています。カルロスは息子とは仲がよく、仕事の合間の学校の送り迎えなど、彼との関わりや共に過ごす時間を大切にしています。息子と会えなくなるので、元妻の国外脱出計画に反対しています。
相方の女性警察官はガブリエラ。元看護師です。行方知れずだった弟フィデルが “輝ける道” の活動に関わっていることを、職務を通じて知ることになります。彼を救い出そうとしますが上手くいきません。ガブリエラは警官としての職務との間で葛藤します。
カルロスとガブリエラは単独で動くこともありますが、恋人同士を演じながら、グスマンの居所を捜査することが多かったように描かれています。捜査に予算が付かないのでしょうか、車や無線の多くは故障しています。故障していなくても車は頻繁にエンストし、尾行が頓挫して捜査に支障が出ています。
それでもじわじわと、ペルー警察は党首アビマエル・グスマンの居所を突き止めていきます。
当時のペルーの状況をざっくりWikipediaで調べてみますと、以下のような感じでした。“輝ける道” はテロ活動をやりたい放題、業を煮やしたCIA(アメリカ)が警察支援を行うようになった、そんな時期だったと思われます。在ペルーの日本人や日本企業も大きな被害に遭っています。そう言えば、そんな事件があったことを思い出しました。
1990年にアルベルト・フジモリ大統領が登場して以降もますます行動は過激化し、国会議員5人を暗殺し、さらには日産自動車リマ支店襲撃事件などが引き起こされた。翌年には日本、イスラエル、アメリカの大使館を同時に爆弾攻撃し、国際協力事業団(JICA)の日本人農業技術専門家3人を襲撃し殺害する事件を起こした。
しかし、センデロの伸張ぶりに危機感を覚えたCIAによって警察当局は支援されるようになり、アビマエル・グスマンをはじめ7人の幹部が1992年に逮捕される(グスマン逮捕時には7000名のメンバーを擁し、毎日のようにテロ行為を行っていたとされる)。
Wikipedia “センデロ・ルミノソ” より
コロンビアのカルテルとの壮絶な戦いを描いた「ナルコス」を観ても分かる通り、アメリカは自国にとって好ましくない動きに黙っていません。組織(「ナルコス」の場合はDEA等)を送り込んだり、各国の軍隊や警察の支援を行ったりします。ペルーについても同様だったということです(本映画はその点に触れていません。カルロス&ガブリエラの潜入捜査はCIAと無関係に見えますし「最後は結局アメリカの力なのかい」という思い込みを強化するだけなので、触れなくて正解だったと思います。なお映画を観る限りでは、ペルーの諜報部は、カルロスたちの所属する部署とは無関係で、多少の情報交換はあったかもしれませんが、別々に動いていたようです)。
互いに大きな心身の苦痛を乗り越え、協力しながら職務を遂行していくカルロスとガブリエラ。職務を超えた連帯感が生まれていきます。ガブリエラの弟が “輝ける道” 関係者であったことから、ガブリエラとカルロスは同組織が送り込んだスパイなのではないかと警察内部から疑われます。
映画の終わり方がそそります。ふたりはそれぞれ、別の場所でなすべき職務を遂行。カルロスはガブリエラに電話をします。安堵が訪れ、未来への希望が生まれます。
当時のペルー国内の混乱ぶりや、テロを多発させる指導者グスマン逮捕までの流れは事実に基づいていて、潜入捜査を行った警察官たちも当然のことながら何人もいたのでしょう。ただしカルロスとガブリエラの物語は、どこまでが本当にあったことなのか。そこが気になります。
カルロス役ピエトロ・シビルが、日本人で最低でも3人くらいは知っている顔立ち(日本人としては濃いが、たまにいるタイプ)なのもあって、カルロスとガブリエラの関係がその後どうなったのか、珍しく気になる私なのでした。
ペルーには、ナスカやフマナ平原(パルパ)の地上絵、マチュピチュ遺跡などがあります。マチュピチュは、15世紀半ばのインカ帝国時代に築かれた都市遺跡。ボリビアとの国境にあるチチカカ湖は世界で最も標高が高い湖(標高3800m)。私の父は訪れたことがあるようですが、私も一度行ってみたいです。
肌の色が浅黒いものの、ペルー先住民の顔立ちには日本人に似たテイストを感じます。また、ペルーには日系人などのアジアの人たちも多数流入していることから、顔つきに自ずと親しみを感じるのかもしれません。
ドラマシリーズ「ナルコス」のような派手さはないものの、使命感をもって動き続けたペルーの警察官たちの地道な捜査・努力がしのばれます。「グスマン逮捕時には7000名のメンバーを擁し、毎日のようにテロ行為を行っていたとされる」ことから、家族のなかに “輝ける道” のメンバーがいる、というケースは珍しくなく、警察内部に “輝ける道” のスパイが潜り込むということも実際にあったのでしょう。恋人が実は “輝ける道” の一員だった、ということも。そういう当時の情勢も含んでいて秀作です。