奇々怪々のドキュメンタリードラマ「バチカン・ガール エマヌエラ・オルランディ失踪事件」【後編】

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【前編】からの続きです。

奇々怪々のドキュメンタリードラマ「バチカン・ガール エマヌエラ・オルランディ失踪事件」【前編】
世の中の闇の部分に登場するのは常に同じ人たちという慨嘆をもたらします。秀作です。【前編】は、1983年6月~12月の展開を取り上げます。

少女失踪事件の経緯(1993年以降)

1983年に誘拐犯からの連絡が途絶え、その後10年が経過。1993年の出来事をきっかけに事件は新たな展開をみます。[注意!]先の展開を知りたくない方は、ここから読まないことをお勧めします

【1993年以降の展開】

要約:『エマヌエラ失踪事件』にローマ最大のギャング団&マフィアの関与が示唆される

  • 検察庁に呼び出されたエマヌエラの家族はルクセンブルクで撮影された女性の写真を見せられる。現地へ向かうが別人であることが判明
  • 2004年にオルランディ家の父が死去。その翌年、教皇ヨハネ・パウロ2世も死去。その数週間後テレビ番組の留守電にメッセージ。「事件の鍵はサン・タポリナーレ教会の埋葬者とレナティーノと枢機卿の関係だ」 
  • 2006年以降、ローマ最大のギャング団ボスの元恋人サブリナ・ミナルディが「エマヌエラを監禁」「バチカンのガソリンスタンドでエマヌエラを神父に引き渡した」「『これは権力闘争だ』と彼(ギャング団のボス)は言った」と証言。ミナルディは特捜班に逮捕され証言が正しいかどうかが精査される ⇒ 大筋で正しいことが確認される
  • 2013年、テレビ番組のジャーナリストにマルコ・アッチェッティ(新証人)が電話連絡。自分が “アメリカ人” で「エマヌエラを誘拐した」と言う。誘拐したのはふたりで、もうひとりはミレッラ(16歳のイタリア人)と明かす ⇒ さらに胡散臭い人物が登場
  • 専門家によりマルコ(自称 “アメリカ人”)の音声分析が行われる ⇒ 1983年7月と9~12月の電話の内容の違いが興味深い
  • フランシスコ教皇(2013年選出)はエマヌエラの母親に「彼女は天国にいる」と告げる ⇒ なんで分かるの?
  • 2016年の “バチリークス” をきっかけに、バチカンがエマヌエラのロンドンでの生活(~1997年)を支えていたことが分かる ⇒ 資料の信憑性に疑問の声あり
  • 2017年、証人保護プログラムから外されたマリアーナ団のマウリッツォ・アバティーノに女性記者が接触。2年後に取材が実現。[マフィア → レナティーノ → バチカン]と資金が流れ返金されていないことが語られる

<豆知識> 事件発生の1983年当時、マリアーナ団はテスタチーニ(トップ:レナティーノ)、マリアネージ(トップ:マウリツィオ・アバティーノ)の二大勢力に分かれていた

  • 2019年7月、バチカンにて2つの墓が掘り起こされる。どちらの墓も空(から)だった ⇒ 掘り起こしの申し入れから許諾まで数カ月かかっている
  • カルロ・マリア・ビガノ大司教が、エマヌエラが失踪した夜の出来事について証言。匿名の電話(「エマヌエラは誘拐された」)を受けたことを広報部トップの神父から聞いていた ⇒ 犯人は家族より先にバチカンへ接触
  • エマヌエラの友人が匿名で証言。彼女は「教皇にとても近い人物に性的に苦しめられた」

関与が疑われる人物や組織の顔ぶれがすごい

事件に比較的直接的に関与した可能性のある人物やグループとして①国際テロ組織、②ソ連の秘密警察KGB、③秘密情報部に雇われた弁護士、④ローマ最大のギャング団、⑤ローマのマフィア、⑥銀行、⑦反共組織、⑧諜報&工作活動メンバー、⑨バチカンの聖職者…。世の犯罪ものに出てくる “闇の勢力” の代表選手が勢ぞろいです。

おなじみの “闇の勢力” という切り口以外に “無神論の共産主義(ソ連) vs 反共産主義” という政治&宗教対立もみられます。周辺情報が多すぎてワケが分からなくなっていきます(真相はシンプルだと思いますが)。

【国際テロ組織/反共組織】

  • “灰色のオオカミ”(国際テロ組織) ⇒ トルコの超国家主義的極右組織、ヨハネ・パウロ2世を狙撃したメフメト・アリ・アジャが所属
  • “連帯”(ポーランドの反共組織)…ポーランドの民主化運動で主導的な役割を担った。もともとは労働組合で自由な活動が認められていなかったが、ペレストロイカの流れの中で合法的地位を獲得。ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世は “連帯” を支持。アメリカCIAは “連帯” への資金提供の抜け道としてローマ教皇庁を利用したと言われている

【ソ連の組織】

  • KGB(ソ連国家保安委員会/秘密警察) ⇒ “灰色のオオカミ” に属するメフメト・アリ・アジャは、ブルガリア人を通じてソ連のKGBからの指示で教皇を狙撃したと証言

【イタリアの機関・組織関係者】

  • ジェンナーロ・エジディオ(弁護士) ⇒ 秘密情報部が手配したオルランディ家の電話番。「エマヌエラは生きている」と証言
  • ロベルト・カルヴィ(銀行家)…アンブロジャーノ銀行の頭取。バチカン銀行と深く結びつき “神の銀行家” と呼ばれる。マフィアの資金洗浄にも関わりバチカン銀行ルートを利用。後にロンドンで首つり死体で発見される(マフィアによる他殺と考えられる)

【マフィアとギャング】

  • エンリコ・デ・ペディス(ギャングのボス) ⇒ 通称:レナティーノ。マリアーナ団のボス。バチカン所有の墓地に埋葬されている。通常あり得ないことで特別な許可または巨額の寄付があったと考えられる
  • ローマのマフィア(マフィア)

【バチカン関係者】

  • ポール・マルチンクス(銀行総裁で大司教)…バチカン銀行の総裁で米国人大司教。反共産主義。教皇と彼はポーランドの反共運動(“連帯”)に資金提供を行ったとされる
  • 教皇にとても近い人物(高位聖職者)…エマヌエラに性的虐待を行ったことが疑われる
  • マルコ・アッチェッティ(ガングリオンのメンバー)…「自分が “アメリカ人” だ」と主張。司祭のために陰で動く秘密組織(ガングリオン)の一員。エマヌエラとミレッラの誘拐について語る

【所属が曖昧な人たち(諜報&工作活動メンバー)】

  • エイボンの販売員の男性/35~40歳くらいの男性(何者かの手下) ⇒ 身長180㎝。グリーンのBMWを運転(エイボンの販売員と同一人物?)
  • “アメリカ人”(何者かの手下、あるいは愉快犯) ⇒ 要求の電話をかけてくるが “灰色のオオカミ” や “KGB” とのつながりは見えない

闇深すぎるが、作品が提示する事件の筋書きとは

このドキュメンタリーで提供される情報は、多くの記者・ジャーナリスト、捜査官・調査官・弁護士等によって、もたらされています。非常に重みのある内容だと思います。

その流れに基づいて解釈すると次のようになります。本作によるバイアスを含みます。真相は分かりません。

  1. 「ロシアを含む共産圏にカトリックの信仰を復活させる」というヨハネ・パウロ2世の使命感により、バチカンはマフィアから得た巨額の資金をポーランドの反共組織 “連帯” に流した
  2. その資金をマフィアに返さなかった
  3. 資金の返却を求めるマフィアが、バチカン市民のエマヌエラを誘拐し、バチカンに身代金として支払わせようとした
  4. エマヌエラは教皇に近い聖職者から性的被害を受けたことがあり、マフィアはそのスキャンダルを材料にバチカンを脅した(親しい友人くらいしか知らないことを、マフィアはどうやって知ったのだろう?とは思いますが、マフィアは何でも知っているのかも)

政治家や宗教家など「人々のためを思って活動しているように見える」人たち、表や裏の社会で力をもっている人たち、どれも同じように腐敗しているのだと感じました。特に宗教については、権威をもつ大組織ほど闇が深いですね。

ロシアでは、ゴルバチョフ書記長が1988年頃より信仰の自由を認める姿勢を打ち出したので、ヨハネ・パウロ2世の思いは成し遂げられ、ファティマの預言が示したように殺されることなく2005年に逝去。晩年は健康面にいろいろな問題を抱えていたようです。

ドキュメンタリーとして、完全なる時系列ではなく、時期が前後して編集されている部分もあり、また出来事や情報に関わる人たちも多岐にわたるため、トータルで理解するには若干のアタマの整理が必要です。しかし、なかなか以上の秀作だと思います。

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