「シーズン1(戦争兵器)」→「シーズン2(麻薬カルテル)」→「シーズン3(水資源)」ときまして、シーズン4のテーマは「薬害」です。各シーズン、アメリカ社会の主要な社会問題を取り上げているのでしょう。そしてシーズン4で弁護士ビリーとパティが闘うことになるオピオイド産業が、アメリカにおける “最も狡猾なゴリアテ“ であるようです。
弁護士ビリー役のビリー・ボブ・ソーントンは父親が高校教師、母親がサイキックだそうです。サイキックというのは職業ではなく能力だと思いますが、ドラマのシーズン4では、ビリーのサイキックっぽい能力も描かれます。家族関係のトラウマ・課題がストーリーを作り出し、映像として視覚化され、ビリー本人もそこにいる、そんな体験を繰り返します。怪我による身体的ショックや、処方されている薬(痛み止めなど)の影響もあるのでしょう。
シーズン1は比較的ありがちな法廷ものでしたが、シーズンが進むにつれ、弁護士ものドラマとして独自かつ不思議なテイストが強まります。そこが「弁護士ビリー・マクブライド」の魅力であり、面白さかもしれません。
シーズン4は、ビリーの夢まぼろしと現実が錯綜しながら進んでいくことから、夜の街並みや部屋の雰囲気など、映像も幻想的なタッチとなっています。
こんな感じでドラマは始まる
弁護士ビリーは銃で撃たれて倒れます。そこでシーズン3が終わりました。
そしてシーズン4。ビリーは、西部開拓時代の雰囲気を漂わせる乾いた大地で目を覚まします。起き上がった彼は「潮時だから」と保安官バッジを返却しようと考えます。ビリーは保安官なのでしょうか。ビリーは若き時代の父と会話します。父はビリーに厳しく接します。次に娘デニスが登場します。「“不愉快“ を6文字で言い換えるとしたら何?」とビリーに問いかけます。しかしそれは夢(あるいは幻覚・妄想)だったようで、ビリーはチャイナタウンの診察台で目を覚まします。そして、医師のミンから中国医療に基づく薬の処方を受けます。ビリーは薬漬けのようです。
シーズン4の舞台はサンフランシスコ。撃たれた傷の治療をチャイナタウンで受け、ビリーは少しずつ回復しています。いろいろあって、彼と娘デニスは疎遠になっています。ビリーはチャイナタウンの部屋で暮らしています。向かい側の窓から、何者かが彼を見ています。ビリーも窓から周囲の住人たちを観察しています。
ビリーの友人ブリタニーは、シーズン3では弁護士を目指していましたが、その後はシカゴで私立探偵業を営んでいます。仕事の相棒だったパティは、サンフランシスコにある大手弁護士事務所マーゴリス&トゥルーに勤めています。
チアリーディング中の事故で脊椎を損傷し、鎮痛剤トリマドンによって娘アマンダを亡くした弁護士トム・トゥルーは、オピオイド系鎮痛剤の過剰摂取の元凶となっている製薬会社らに戦いを挑みます(トムは、パティの勤める弁護士事務所マーゴリス&トゥルーの共同代表)。彼は3社(トリマドンの製造元で薬の中毒性を否定するザックスファーマー、過剰出荷についてDEAへの報告を怠った卸売業者のティリンジャ―ヘルス、鎮痛剤の処方箋の急増を通報しなかった小売業のラッセルドラッグ)を提訴。
しかし弁護士トム・トゥルーは行方不明となります。
弁護士ビリーが引き受けた案件とは
サンフランシスコの大手弁護士事務所マーゴリス&トゥルーに勤務するパティの案件に、ビリーが招かれて参加します。
マーゴリス&トゥルーは創業者であるサムの父の死により顧客が離れ、財政面で困窮していました。水を巡る無償弁護の集団訴訟で5億ドルの和解金を手に入れた実績(シーズン3)などを見込んで、サムの判断により、パティとビリーを迎え入れたのでした。サムと、亡き父の若き後妻エイヴァ(事務所の幹部)は折り合いがよくないようです。そしてサムは多発性硬化症という難病を患っています。
マーゴリス&トゥルーのシニアアソシエイト弁護士ロバートの前に、突如姿を現したトム・トゥルーは「サムに狙われている」と告げ、それを口外せぬよう念押しします。トムとマーゴリス&トゥルー創業者の娘サムは “訴訟 VS 示談” で意見の相違がありました。
過去の証言録取のテープをビリーが聴くと、ティリンジャーヘルスには内部告発者がおり、身の安全を求めていたようですが、証言録取の記録にはありませんでした。意図的に記載されなかったと考えられます。訴訟の裏には、何か闇深い取引がありそうです。サムの方針は「3社との示談」であり、ビリーもそれに従います。
周辺の動き、事件の真相は
シーズン4では、ビリーの夢まぼろしらしきシーンが随所に挿入されています。
ビリーに対し、謎かけのようなことを言う不思議な東洋人女性(夢前案内人のような存在?)。西部開拓時代風の光景のもと、たびたび現れるビリーの父。その当時の服装・髪型をした娘のデニスも現れます。破壊願望と逃避癖、クロスワードパズルの22番目のマス「“不愉快“ を6文字で言い換えたら」というお題が、ビリーの人生のテーマのようです。彼は心身共にギリギリなのでしょう。
ビリーの潜在意識が脚色した過去絵巻からは、高圧的な父に常にダメ出しをされ続け、自分に対して否定的かつ強迫的になってしまったまま、そこから脱出できないビリーの苦悩が感じられます。奇妙な夢まぼろしは、心の傷やストレスから生じているようですが、意識の世界では不思議なことが起きます。訴訟にまつわるカギも折に触れ提示されます。
ザックスファーマーのラボで責任者として働くケイトは、経営者ジョージ・ザックスの姪にあたります。ケイトの父は、かつてザックスファーマーの製品開発担当でしたが追放されました。そしてケイトは叔父のジョージに育てられました。彼女は新薬開発のカギを握っています。ジョージの実の息子ディランは、新薬のFDA認可について、ケイトとは異なった意見をもっているようです。
失踪していたトム・トゥルーがある日ビリーのところへ現れ、ビリーとザックスファーマーとの25年前の関係について情報を提供します。そして今回の案件について、ビリーは自分が雇われた真の理由を理解します。3社すべての示談は難なく完了するかのように見えましたが、ビリーは翻意し、判事によって法廷から退場させられます。方針に従わなかった彼は、マーゴリス&トゥルーから契約を打ち切られます。代わりにパティが示談の主任代理人となります。
ビリーはザックスファーマーの責任追及のため、かつての仲間である弁護士ドナルド・クーパーマンに協力を求めます(今回のクーパーマンは「いい人」。シーズン4は2021年に公開され、演じているウイリアム・ハートは翌年の3月に死去)。3社に対する示談を公判に切り替える意思表示をして法廷侮辱罪とされた件で、ビリーは弁護士資格を停止されます。したがって私立探偵ブリタニーらと協力しながら、別の形で裁判に関わります。
シーズン4全体を通して、周囲の人たちが去り行く人生、良心に対して誠実であること、過去の過ちを受け入れて謝罪すること、他者を赦し新たな道を示すことの「悲哀」「難しさ」「美しさ」が描かれています。意外にもジーンとくる終わり方をするファイナルシーズンです。私は人と人との別れが嫌いじゃありません(出会いと同じくらい、いいものだと思っている)。ビリーとパティ、ブリタニー(そしてマーヴァ)は広いアメリカの大地で再び離れ離れとなり、それぞれの人生を歩みます。ビリーは娘デニスと再会しますが、そこが新たなスタート地点です。