今さらだけど映画「インファナル・アフェア 無間道」と「ディパーテッド」の比較

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レオナルド・ディカプリオやマット・デイモンが出演している映画「ディパーテッド(原題:The Departed)」(2006)は以前観たことがあります。同作品は香港映画「インファナル・アフェア 無間道(原題:無間道、英題:Infernal Affairs)」(2002)のリメイク。オリジナル(元ネタ)の映画を大変遅まきながら、このたび視聴したので2作品の比較などしてみたいと思います。

一言で表現するなら「それぞれのお国柄がわかる、どちらも上手にまとめられた作品」です。そしてとても面白い。

登場人物の比較

①警察からギャング組織に潜入する捜査官、②ギャングが警察に潜入させた人物(警官)によるスパイ合戦、それに基づく警察とギャングのせめぎ合いが描かれています。

潜入したスパイたち

  • ギャングに潜入する捜査官(①)
    • オリジナル:ヤン(トニー・レオン) ⇒ 潜入捜査官としての素質を見込まれ、警察訓練学校退学処分の体で姿を消す。警察訓練学校にはラウ(アンディ・ラウ)と同時に在籍。過酷な潜入捜査にギブアップ寸前だが、そんな生活に約10年耐えている。サムの組織に入って3年が経過
    • リメイク:ビリー・コスティガン(レオナルド・ディカプリオ) ⇒ アイルランド系アメリカ人。一族や本人の過去が “イカレている” ことを理由に、半ばパワハラ気味に州警察から5年間の潜入捜査を命じられる。警察学校での成績は非常に優秀だった。アイリッシュギャングの組織に潜入する
    • メモ:「インファナル・アフェア」は三部作であり、最初のこの作品においてはヤンはセンスがあったがゆえに潜入捜査官に抜擢された感が強い。ビリーは一族の素行に問題があり、闇社会への耐性を見込まれて潜入捜査に送り込まれたように見える(もちろん優秀ではあった)
  • ギャングが警察に潜入させた人物(②)
    • オリジナル:ラウ(アンディ・ラウ) ⇒ 香港マフィアの逮捕歴なき構成員。ボスのサムによって警察学校へ送り込まれた何名かのひとり。ヤン(トニー・レオン)とは顔見知りのはずなのだが、その点に関しては曖昧なままストーリーが進行する。“情報課” 所属の刑事だったが内通者(イヌ)発見のために “内務調査課” への異動を命じられる
    • リメイク:コリン・サリバン(マット・デイモン) ⇒ アイルランド系アメリカ人。賢かったので子どもの頃からアイリッシュギャングのボス、コステロのサポートを得る。成長して警察学校に入る。順調に昇進して州警察 “特別捜査課” の刑事となる。後にギャングが送り込んだ内通者(ネズミ)発見の役割を担うことになる
    • メモ:「インファナル・アフェア 無間道(以下、香港版オリジナル)」ではシンプルに香港マフィアという括りが示されるが、アメリカが舞台の「ディパーテッド(以下、アメリカ版リメイク)」は多様なギャング組織のなかでもアイリッシュ系を取り上げている。コリン・サリバン(マット・デイモン)のほうがラウ(アンディ・ラウ)よりも生意気でチャラい。香港版オリジナルは組織の図式がシンプルなのに対し、アメリカ版リメイクにはFBIの思惑や暗躍も絡んでくる

マフィア/ギャングのボス

  • オリジナル:サム(エリック・ツァン) ⇒ 香港マフィアの親分。谷啓似でユーモラスな風貌。イカレているのだが、怒らせなければ正常範囲に見えるし、商店に喩えると “たまに店に出て部下と働くタイプ”
  • リメイク:フランク・コステロ(ジャック・ニコルソン) ⇒ アイリッシュギャングのボス。目つきからしてイカレている。関わらないほうがよいオーラを放っている。力(暴力、女性とのセックス、金)が好きで、それらが活力源の男根系リーダー
  • メモ:イカレている人物のイカレっぷりは、やはりアメリカに軍配が上がるなと思った

スパイたちの上司(州警察)

  • オリジナル:ウォン警視(アンソニー・ウォン) ⇒ 人柄にそこそこ隙があるので人好きのするタイプ。ヤン(トニー・レオン)に父性で対応しているように見える
  • リメイク:クイーナン警部(マーティン・シーン) ⇒ 物静かな紳士風。潜入捜査官ビリー(レオナルド・ディカプリオ)に対して適宜必要なサポートを提供。信頼を裏切ることはないが、部下からするとちょっと物足りないのでは
  • メモ:ウォン警視はヤンに対して家族的な温かい眼差しを向ける “父親みたいな存在”。一方クイーナン警部は “物静かな善人” あるいは “理解ある上司” タイプ。香港版オリジナルではウォン警視とともにヤンを見出した警察訓練学校司令官は殉職し、ヤンが警察官であることを知るのは警視ひとりだけ。アメリカ版リメイクではパワハラキャラのディグナム巡査部長(マーク・ウォールバーグ)がクイーナン警部をサポートしている

スパイが通う心理カウンセラー/分析医

  • オリジナル:ドクター・リー(ケリー・チャン) ⇒ 潜入捜査のストレスから傷害事件などの問題を繰り返し起こすヤン(トニー・レオン)をサポートしようとウォン警視が手配した心理カウンセラー。最終的には恋愛感情を互いにもつが、直接的な濃い愛情表現は出てこない
  • リメイク:マドリン(ヴェラ・ファーミガ) ⇒ 州警察付けの精神分析医。刑事コリン(マット・デイモン)とエレベータで知り合い、その後同棲。ビリー(レオナルド・ディカプリオ)は患者として彼女を訪れ、面談を繰り返すことでふたりの親密さが増す。…のだがビリーのどこに惹かれたのかがよくわからない。刑事コリンにしっくりこないものがあったからだろうか?
  • メモ:香港版オリジナルではマフィアのヤン(トニー・レオン)の主治医。アメリカ版リメイクではアイリッシュギャングのビリー(レオナルド・ディカプリオ)の主治医だが、刑事コリン(マット・デイモン)と同棲。刑事コリンの立ち位置である香港版オリジナルの刑事ラウ(アンディ・ラウ)には婚約者マリーがいる。したがって香港版オリジナルでラウとドクター・リーが交際することはない

ストーリーの比較

“ギャング⇒警察” スパイたちの成育歴について

これはアメリカ版リメイクのほうが詳しいです。

①香港版オリジナルは(結果として)三部作であるため細かな情報を割愛している、②アメリカは多様性に満ちた社会であるためアイリッシュギャングの文化や状況を伝える部分をわざわざ作った、③少年時代を描写することでコリン(マット・デイモン)のキャラへの理解度を上げようとした、あたりが理由と考えられます。

なお、コリンの少年時代の子役が「ちゃんとマット・デイモン」していて上手です。眉の動かし方とか観ていて感心します。

ビリー(レオナルド・ディカプリオ)がアイリッシュ系ギャングであるフランク・コステロの組織に潜入するまでのストーリーにも時間を割いています。

精神分析医との恋について

香港版オリジナルは色恋表現に関して東洋的淡白さがあって「メインの物語は警察とマフィアの諜報合戦なのです」という意識が感じられます。中国の方針もあるのかもしれませんね。

アメリカ版リメイクでは、コリン(マット・デイモン)はエレベータで声をかけるところから同棲に漕ぎつけ、分析医マドリンは患者のビリー(レオナルド・ディカプリオ)とも肉体関係をもちます。西洋人にしてみれば、これくらいの濃さがないと観ていて落ち着かないのかもしれません。肉食の白人社会を感じました。

香港版オリジナルにはヤン(トニー・レオン)のかつての恋人メイが彼の子を産んでいたのでは、といった “ほのめかし” もありますが、ふんわりした描写であることがヤンの薄幸や悲哀を際立たせています。

宗教的背景について

「無間道」とあるように、香港版オリジナルは仏教思想をベースにもっています。

大罪を犯した者が絶え間ない責め苦にあう最下底の地獄が「無間」。善に目覚め、際限のない悪の世界から足を洗おうとしてもそうはならない、死ぬまで続く辛い道が描かれています(「無間地獄」は永遠に続く地獄であり、そこに死はない)。とは言っても、宗教的テイストはほとんど感じられませんでした。不条理感は強いかもしれません。

香港版オリジナルではマフィアのボスのサムは、警察に潜入させる若者たちを連れて、お寺に祈願に行きます。一方アメリカ版リメイクで、ギャングのボスのコステロは「教会や神の言うことなんぞクソくらえ。この世を創るのは自分の強い力だ」という立場をとっています。

プロットのひとつひとつにワクワクしてしまう

舞台が香港とアメリカなので、ディテールにはもちろん相違があります。骨子となる展開の一部も違います。「おお、ここは同じだ!」「ここは変えてあるんだ!」という発見で胸が躍ります。

たとえば、マフィアから警察に潜入していたラウ(アンディ・ラウ)はボスのサムを銃で撃ちます。しかしそれは、コリン(マット・デイモン)がボスのコステロを銃で撃った理由とは異なっています。

そういえば以前、こんな記事を書きました。

“心の劇場”を鑑賞できる映画「ゲーム」と「THE GUILTY/ギルティ」
何の気なしに観たふたつの映画が面白かったので、その共通点をまとめました。

オランダ版オリジナルの映画「ギルティ」とハリウッド版リメイクの間に大きな違いはありませんでした。どちらも西洋社会が舞台で密室で繰り広げられる物語だったので、悪く言えば変わり映えしませんでした。

その点「インファナル・アフェア 無間道」と「ディパーテッド」は舞台が東洋と西洋であることから「そこそこ違って、そこそこ同じ」という絶妙なバランスになっていると思います。

ひとつ不思議だったのは香港警察の葬儀で、なぜスコットランドの民族衣装を着た人がバグパイプを吹くのか、ということです。かつてイギリスの統治下にあったからなのかと思いきや、軍隊や警察などの葬列でバグパイプ楽団が演奏するのを慣例とする国はいろいろあるようです。もちろんアメリカ版リメイクでもバグパイプ楽団が行事で演奏をしています。

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