レアメタルが生んだ悲劇―ドキュメンタリー「ムクウェゲ『女性にとって世界最悪の場所』で闘う医師」

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コンゴ民主共和国の東部ブカヴ。その地で武装勢力によるレイプ被害に遭った女性たちを無償で治療してきたデニ・ムクウェゲ医師の活動を取り上げたドキュメンタリーです。視聴して気付いたのですが、日本のTBSの製作によるものでした。ナレーションは常盤貴子さん。

ムクウェゲ医師の活動

ムクウェゲ医師は、女性たちの性暴力被害の診察・治療にあたると同時に、コンゴの実情を世界に対して訴えてきました。2018年にはノーベル平和賞を受賞しています。

牧師の息子として生まれた彼は、出産で命を落とす女性が多かったことから産婦人科医を志します。そしてパンジ病院を1999年に創設。しかし最初の患者は妊婦ではなくレイプ被害者でした。彼の闘いの日々が始まります。

年間2500~3000人の女性がパンジ病院に運び込まれました。酷い性暴力により傷の程度が極めて重く、繰り返し手術を受けなくてはならない被害者もいます。ムクウェゲ医師は20年間で5万人以上の女性を救ったと言われています。

コンゴ民主共和国は豊かな鉱物資源をもち、本来は豊かな国。しかし武装勢力によって無法地帯と化した土地で暮らす人々は貧しく、罪なき女性たちが心身の傷を負っています。その背景には先進国の無関心やエゴがあることをムクウェゲ医師は指摘、是正に向けた理解と協力を世界に訴えています。

ブカヴにおけるレイプ被害とその背景

ブカヴはルワンダ国境に近い街であり、1994年にはルワンダの紛争や大量虐殺による難民が流入。虐殺の首謀者たちもコンゴへと逃げ込みました。1996年にはコンゴの反政府勢力をウガンダとルワンダが支援。コンゴ東部は武装勢力が乱立する無法地帯となりました。

ブカヴはコンゴのなかでも “レイプの中心地” なのだそうです。コンゴ東部では、これまでに40万人以上の女性が武装勢力による性暴力に遭いました。“女性にとって世界最悪の場所” とも言われています。そこで横行している行為をムクウェゲ医師は「性的なテロリズム」と表現しています。

「単に性欲を満たすことが目的ではない。被害の当事者やその家族に悲惨で屈辱的な体験をさせ、消えない深刻なトラウマ・恐怖を刻み込むことによって人々を支配しようとしている」とムクウェゲ医師は分析しています。レイプを武器に家族やコミュニティを破壊するのです。

100以上の武装勢力が存在するコンゴ東部はレアメタルなどの鉱物を豊富に埋蔵しており、その収奪のために鉱山周辺を中心にたくさんの女性たちが襲われています。武装勢力は不法に手にした鉱物を売って得た資金で武器を購入しています。

武装勢力元メンバーの談話

26歳の元武装勢力メンバーがふたり登場します。

ひとりは、村にやってきた武装勢力によって強制的に兵士にさせられた、と述べています。彼の母親や姉は性的暴行を受けたそうです。武装勢力の兵士となった彼は指示に従って4年間に200人以上の女性をレイプしたとのこと。指揮官が死亡したため組織から脱走し、その後は妻と子ども3人と暮らしています。

もうひとりは武装勢力から村を守るために仕方なく参加した、とのこと。こちらの男性も同じくらいの人数をレイプしています。自分が楽しむためではなく、命令に従って見せしめとして実行するのだと言います。目的は鉱山の支配です。5年の刑期で刑務所に収容されていた彼(性暴力以外にも11人殺したらしい)は、家族がお金を工面して所長に支払ったことにより4カ月で釈放されました。コンゴではよくあることだそうです。彼も妻子がいます。仕事はしていないようです。

ちょっと理解できないですね。私が彼らだったら、組織を抜けた後は俗世を離れ(例えば出家するとかして)懺悔と奉仕の日々を送ります。脳の回路のどこかを意図的に切断しているのかもしれませんが、彼らは自分の良心や真実と嘘との折り合いをどうつけているのでしょう。ごく若いときに洗脳されるとあのようになってしまうのでしょうか。

考えてみれば元メンバーの彼らも気の毒な被害者です。ゆえに家族や周囲からの理解や赦しがあるのかもしれません。「そうするほかなかった。わかるよ」と。日本人以上に “水に流す” 気質なのか、深く物事を考えない人たちなのか、国民性も違いますし、私自身が当事者でないためよくわからないところがあります。

諸悪の根源は何か

それは私たちのせいだったのか

世界で生産されるタンタル(パソコンやスマートフォンに使われる材料)の3分の1が日本で加工され、そこではコンゴ産が多く使用されています。広島に落とされた原子爆弾のウランもコンゴ産のものなのだそうです。私はどちらも知りませんでした。

このドキュメンタリーから得た情報をまとめると、私たちが日常的に使用する機器に必要な資源の採掘や流通のベースにはコンゴの人々の命の犠牲、女性たちの壮絶な体験があるということになります。しかし「そうなったのはお前たちのせいだ」と言われてもピンときません。パソコンやスマートフォンを使用していますが、それは必要だからであって贅沢のために頻繁に買い替えたりしていません。ピンとこないのはコンゴの鉱物の採掘や流通の実態、公正と言えない取引がまかり通っていることを知らないからだと思います。ムクウェゲ医師の言葉を借りれば “無関心” なのでしょう。

日本の人たちが知っているなかでは「ウイグルの人たちに不当な労働を強いて製品を作っている、ファストファッションメーカーの商品を買うのをやめましょう」というのに似た産業構造なのかもしれません。

コンゴ政府が問題に向き合おうとしない理由

ムクウェゲ医師はコンゴ政府に自助能力、自浄能力がないことを理由に国際社会がコンゴの内情に関心をもって対応することを望んでいます。

アフリカを植民地として搾取してきた西洋社会の無責任は確かに大きな問題です。しかし国際社会や西洋の国々の対応が変われば問題は解決するのでしょうか。コンゴ民主共和国自体に自分たちを変える力はないようなので外からの変化・圧力が必要なのかもしれません。その点は日本も似ています。しかし日本とコンゴでは国内で起きている犯罪の数や深刻度の次元が異なります。

コンゴでレイプがなくならい理由のひとつに「加害者がきちんと処罰されないこと」をムクウェゲ医師は挙げています。前述の通り、所長にお金を支払えばすぐに刑務所から出られますので自分の罪に向き合わずに済みます。また殺人・レイプ・収奪を行ってきた武装勢力出身者が政治家として君臨しており、彼らは保身のために過去の問題が表面化することを回避しようとしています。

国際社会がコンゴに法の裁きを下す日はやってくるのか

国連が作成したものに “マッピングレポート” があります。1993年~2003年の10年間にコンゴで起きたレイプや虐殺など617件の人権侵害についての調査をまとめています。同レポートは国際法廷などにおいて、国際社会の関与のもと裁判を行うことで責任の所在を明らかにすべきと結論づけています。

ムクウェゲ医師は “マッピングレポート” を根拠に法的なアプローチによる正義の実現を求めています。世の中の問題に折り合いをつけようとしたら最終手段は法以外にないのでは、と私も思います。

このドキュメンタリーを視聴したことにより、過去に観たこのドラマの解釈が少し変わりました。

ルワンダ大虐殺をベースにした重厚なドラマ「ブラック・アース・ライジング」
イギリスの国際弁護士イヴの養女になったルワンダ出身の女性ケイトが、母親やルワンダのヒーローの殺害事件を経て、国際的な陰謀の真相に迫ります。
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