地震で壊れたハリーの家。ハリーは「保険が切れていた。残念だが、売るしかないか」と言っていましたが、本当に売ってしまうのでしょうか。私は疑り深いので、ハリーの家として撮影に使ってきた建物に何がしかの事情があって(リノベーションする/解体する等)使えない状況なので、地震で壊れたことにしているのでは?という仮説も捨てていません。
今回はエピソード7(もつれる糸)、エピソード8(血族)を取り上げます。
エピソード7(もつれる糸)
エピソード1(新しい人生)でチャンドラーが弁護したホームレスのジェフリー・ハースタット。彼は医師殺しの容疑をかけられました。裁判で無実となり、私立探偵ハリーは真犯人を捜しています。チャンドラーからの調査依頼によるものです。なぜ彼女が調査依頼をしたかというと、ちょっとばかり面白いいきさつによるものでした。
前回のエピソード6(非情の銃弾)で、家の取得資金に関するハリーとマディの会話を字幕で確認しました(普段そんなことはしないので、たまたまです)。そしてオリジナルのセリフを知ることの重要性に気付きました。今回、エピソード7を英語字幕付きで観ていたところ、セリフの細かな部分に重要なニュアンスが含まれていることに気付きました。
エピソード1で殺されたバス医師(“マニー”)について、若い医師シップマンが語るシーンがあります。
Dedicated to treating the homeless. It’s a challenging population. Mental illness, substance abuse, addiction…(“マニー” はホームレスのケアにも力を注いだ。手ごわい患者たちだ。精神病、薬物乱用、依存症)
その後、子どもの頃、長い時は数カ月も路上で暮らす生活だったハリーの身の上を聞き、シップマン医師は言い訳をします。
しかし医師シップマンは失言の上乗せをします(当人はそれに気づいていません)。
I hope you catch the son of a bitch.
“the son of a bitch” に関して(直球の訳では「娼婦の息子」。この表現を通して言いたいのは「クソ野郎」すなわち殺人犯のこと)、娼婦を母にもつハリーは何も言及しませんでした。この部分、吹き替えだとシップマンは「ぜひ捕まえて欲しい」としか言っていないんですよ。日本語字幕も「ぜひ捕まえくれ」。「その野郎を」といった言葉も添えられていません。「その野郎」とか「そいつ」とか「悪党」とかに該当する英語はいろいろあると思うのですが、わざわざ “the son of a bitch” という表現を脚本家は選んでいるわけです。そこを割愛したのでは、シップマン医師の、無意識に表れてしまう階級意識の強さが伝わりません。
上昇志向が強く目立ちたがり屋のグスタフソン刑事が、医師殺害事件目撃者の重要証言を記録に残さなかったことが判明します。
さて、弁護士チャンドラーやハリーの娘マディをも殺そうとしたカール・ロジャース(ヘッジファンド経営者)の周辺にも動きがありました。カールとつながっていた殺し屋の元締めダッツが刑務所で殺害されたことで、彼に面会したチャンドラーや、彼女と協力関係にあるハリーがFBIの捜査対象となります。
エピソード3(希望のメッセージ)のレイプ事件被害者であるタイ人女性は、捜査に進展がないことについて新人警官マディへ苛立ちを伝えます。警官の各事件への関わりは捜査を刑事へバトンタッチするまでのようですが、警察組織内での優先順位決定権の担保、被害者をはじめとした関係者に対する公平性の見地から “大きな権限をもたない警官” と “事件の被害者“ は深い関わりをもち続けないほうがよい、という考えもベースにあるのかもしれません。「何ができるわけでもないのなら、関わるだけ罪作り」ってやつです。
ハリーは億万長者ヴァンスの息子ドミニクの恋人や子どもについての調査も進めています。ドミニクの遺した写真フィルムに写っている女性の名前が「ビビアナ・ベラクルス」であることが判明し、彼の知られざる家族関係の真相に、ハリーは少しずつ近づいていきます。片や自分たちの利益を守りたいと考える、ヴァンス周辺の者たちはハリーの動向を監視します。
エピソード8(血族)
冒頭、ハリー・ボッシュを演じる俳優タイタス・ウェリヴァーの長男イーモン(EAMONN)が、若き警官ハリー役として登場します。
綴りがEAMONだったらアイルランド男性の名前なのですが、Nがひとつ多いです。どんな文化に由来しているのでしょう。弟のクイン(QUINN)も、姓で使われることのほうが多い名前のようです。イーモンはミュージシャンとしての活動を、俳優としてのそれより先にスタートしています。個人的には長男イーモンよりも、次男クインのほうが “雰囲気タイタス“ だと思います(少年の柔らかさがあったときは、こんな風だったんだろうなと思わせる)。クインは “12歳当時のハリー”、イーモンは “青年時代のハリー“ なので、もちろん一概には言えませんし、イーモンも十分にタイタス臭を醸し出しています(正面から見たときよりも、横からのラインがタイタスを思わせる:個人の感想です)。
父が主役の作品に出演するということは「ボッシュ:受け継がれるもの(LEGACY)」のコンセプトに合いますし、父の目の届くところであれば、昨今問題になっているハラスメント被害に遭うこともないでしょうから、少しずつ着実に地歩を固めていくにふさわしい登場の仕方ではないでしょうか。
さて弁護士チャンドラーは、新人警官ポーリーナ(マディの同期)狙撃の容疑者が警察の発砲で死んだ際、巻き添えとなった元恋人ニコールの不法死亡について市警を訴えます。
ハリーは億万長者ヴァンスの孫にあたる女性に面会し、それが事態を若干複雑にします。また医師殺害事件についての情報をさらに入手しますが、当時担当だったグスタフソン刑事がそれらを故意に取り上げず、ホームレスのジェフリー・ハースタットを殺人犯に仕立て上げた線が濃厚になっていきます。
ヴァンスの遺産を狙うクレイトン(ヴァンスのアドヴァンス社に雇われたトライデント警備会社社長)は、戦力になりそうな女性に接触します。