“自己納得”という繭(まゆ)にこもる若者たち―“消極的フリーター”で顕著


「本当にやりたいことを探している」「やりたいことではないから、やらない」「やりたいことではないが、とりあえずこのままでいい」、インタビューを通し、何人もの若者から、そういった意見が聞かれた。“こだわりがあるようで、こだわっていない”“行動しているようで、行動していない”“変化を求めているようで、停滞することにも抵抗がない”、彼らの真の姿はとらえどころがなく、社会的ストレスを遮る保護膜(繭)のなかに身を置き、そのときどきの風の吹きようにまかせて浮遊しているかのごとくである。

“自己納得”というスタンスに、若者は精神的拠りどころを見出している。彼らは“満足”という言葉を使うが、求めているのは“満足”というよりは、むしろ“納得”である。

“自分らしさ”という言葉は、若者たちにとって拠りどころであると同時に、迷いをもたらすものであった。大人からは「あなたの自由にしなさい」と言われるが、自分のことを自分で考える能力が育つ教育を十分に受けてきたとはいえず、社会構造的に放任されているに等しい。“自己納得”感を大切に生活や仕事をとらえる点は、正社員も学生も、フリーターも同じだが、問題になるのは、フリーターのなかでも、“自分探し”を強く公言する“消極的フリーター(将来に対するビジョンなし)”だ。

【フリーターの4類型(インタビューより)】

将来に対するビジョンあり(“積極的フリーター”)
A. 「キャリア蓄積―将来ビジョン連続型フリーター」(学生時代から職業に対する指向が明確であり、フリーター時代を、将来ビジョンに対するキャリア蓄積につなげている)
例)絵が好きで、CGの勉強の後にCG関係企業でアルバイト。近く正社員登用の予定
B. 「キャリア蓄積―将来ビジョン連続型フリーター」(将来ビジョンはあるが、それに対するキャリア蓄積の場が社会に少なく、フリーター時代の仕事がキャリア蓄積にはつながらない)
例)ロックバンドでのデビューを目指しつつ、居酒屋でアルバイト
将来に対するビジョンなし(“消極的フリーター”)
C. 「仕方なくフリーター」(就職できなかったが、特定の職業にこだわってもいない/就職したいのだが、やりたいことが分からないのでフリーターをしている)
例)新卒で就職できず、学生時代からのアルバイトを続けている。就きたい仕事がわからない
D. 「何となくフリーター」(モラトリアムの延長で、無目的にフリーターをしている)
例)やりたいことがわからず、フリーターになった。就職にあまり関心がない

“自分探し”には、各人各様の試行錯誤が必要になる。しかし、自由で、食べるに困らない世の中は、時限的にそれを遂行させるような強制力をもたない。したがって、ボンヤリと考えている間に数年が経過したり、長年にわたる散発的な試行錯誤の結果、自分の希望と能力・適性が一致しないことを発見して途方に暮れたりする。

彼らは曖昧な“自分探し”のプロセスの果てに自己納得可能な着地点を求める。その背景には、経済や産業が停滞し、“満足”を求めても実現可能性に乏しいことを容易に想像しうる社会もある。今も昔も若者は“自分探し”をするが、今の若者を特徴づけている“自己納得”は、停滞・閉塞した社会と「人生に対して、自分の考えやアクションを適正に定め、実行に移すことのできる」人が育たない社会構造の産物といえる。

ここでは、停滞社会と社会構造の歪みから、どのような弊害が現れているかを理解するため、“消極的フリーター”の“消極的スタンス型自己納得”の諸相をみてみよう。

【“消極的フリーター”にみる“消極的スタンス型自己納得”の諸相(インタビューより)】

指向の特徴:自分の指向や考えを自分で定められない
確固たる考えや将来に対するビジョンなし
「やりたい仕事がなかった。小さい頃から、自分の考えとかこうしたいというのがなく育ってしまった」(28歳・女性)
ビジョンなきことに大きな不安なし
「将来のビジョンは何もない。なるようになれという感じ。仕事は何でもいい。親は何も言わない」(20歳・女性)
親の援助・受容と選択肢の多い生活
「親は、好きなことをやれと言う。海外に行きたいなら行けばいいと言う」(23歳・女性)
行動の特徴:確度が高ければ行動、“ムダ”と思うことはやらない。行動の有無に関係なく諦めがよい
スイッチはONかOFF、切り替えに“こだわり”なし
「今はやりたいことを探しているけれど、見つからなくても1~2年のうちには正社員になるつもり」(24歳・男性)
迷いはあっても行動なし
「興味のある仕事をやっていないし、ずっとできる仕事でもない。他に何ができるというものもない。やりたい仕事は、具体的にはないし、行動もしていない。でも性格的に正社員は向かないし、起業も難しい」(27歳・男性)
あくまでもマイペース
「教員採用試験を2回受けたが落ちた。その流れでここまできた。また受けようかなと思っている。都市によって、上限が30歳とか40歳のところもある。また勉強するのも面倒だけど先生だと公務員だし、安定している」(29歳・男性)

アンケート結果を見ると、フリーターは『趣味と仕事の一致』を強く求めている。「熱中する趣味や時間がある」「希望する生活へ近づくための変化欲求がある」への回答率は正社員や学生よりも高い。“今の楽しみ”と“やる気”はある。しかし、正社員や学生ほどには「5年くらい先の夢や目標」をもっておらず、学生よりもアクションに乏しい。フリーターに対するインタビューでも、“消極的フリーター”から得たのは、「やりたいことを探しているが、具体的に何も行動していない」という回答であった。

【熱中する趣味・生活変化への欲求・中長期的な目標と活動の実態(アンケートより)】 (単位:%)

・熱中する趣味や時間がある:フリーター(72.8)、正社員(69.6)、学生(70.7)、全体(71.0)

・希望する生活へ近づくための変化欲求がある:フリーター(93.2)、正社員(79.8)、学生(87.1)、全体(83.1)

・5年くらい先の夢や目標がある:フリーター(61.2)、正社員(63.9)、学生(67.7)、全体(65.2)

・夢や目標への活動を活発にしている(※夢や目標がある、と回答した人を100%とする):フリーター(27.3)、正社員(21.3)、学生(38.6)、全体(27.2)

 


 

 

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