イギリスのドラマで原題は “Sherwood”。イングランドはノッティンガムシャーの炭鉱集落が舞台です。
同じ場所で同じ主人公で物語が続くのかどうかは知りませんが、シーズン2の制作が既に決定しているようです。
非常にイギリスらしい犯罪ドラマ
2004年に殺された実在の炭鉱労働者キース「フロッギー」フロッグソンに捧げられています。ドラマ作者の育った集落で起きた、恐らくフロッギーの事件を含むふたつの殺人事件に着想を得ています。ごく一部が実話、それ以外はフィクションという感じでしょうか。
労働力が工業へとシフトする以前、大きな産業だった炭鉱業で働く人たちと労使闘争、それら元労働者たちの地域コミュニティという設定が渋いです。田舎の村の労働者階級の希望に欠ける閉塞的な暮らし、過去から続く諍い。いかにもイギリスという感じです。
ベテラン揃いの俳優陣
一言で言うなら “いぶし銀” のドラマ。俳優たちに知っている顔が多くベテラン揃いです。
「ニュー・トリックス〜退職デカの事件簿〜」「ザ・クラウン」あたりに出演したことのある人が多く脇役のエキスパートが勢ぞろいした印象。名前は知らなくてもどこかで見かけたことのある俳優さんたちが観られます。
そういえば「ニュー・トリックス〜退職デカの事件簿〜」「ザ・クラウン」。どちらのドラマも視聴してはいるのですが、今のところ記事にはしていません。
【ベテラン俳優陣(一部)】
アラン・アームストロング(ギャリー・ジャクソン役)⇒ 多くのイギリス作品で見かける人。アラン自身、炭鉱夫の父の元に生まれている。「ニュー・トリックス〜退職デカの事件簿〜」他、ディケンズ作品群でも見かける。顔と髪型に特徴があるので印象に残る。このドラマでは早々に殺害され、それ以降は出てこない
レスリー・マンヴィル(ジュリー・ジャクソン役)⇒「ザ・クラウン」のマーガレット王女役などで知られる
ケビン・ドイル(フレッド・ラウリー役)⇒ 「ダウントン・アビー」のジョセフ・モールズリー役で有名。モールズリーさんはユーモラスなキャラだけれど本作のフレッド・ラウリーはまるで別人。さすがの演技力と思わせる。ケビン・ドイルは「HAPPY VALLEY(ハッピー・バレー 復讐の町)」などにも重要な役柄で出演
ロレイン・アシュボーン(ダフネ・スパロウ役)⇒ 「埋もれる殺意」「ブリジャートン家」「ザ・クラウン」などに出演
クレア・ホルマン(ヘレン・シンクレア役)⇒ 「ブラッド・ダイヤモンド」「裏切りの影」などに出演
アディール・アクタール(アンディ・フィッシャー役)⇒ 「埋もれる殺意」「ナイト・マネージャー」「エノーラ・ホームズ」シリーズなどに出演
俳優自身の姻戚関係も興味深い
主役であるノッティンガムシャー警察の警視正イアン・シンクレアを演じているのはデビッド・モリッシー。私はむしろ、彼を知らないわけですが「ウォーキング・デッド」に出ていたようです(「ウォーキング・デッド」については第1話で視聴を挫折したのでよくわからない)。実生活での妻エスター・フロイトは、オーストリア人の精神分析医ジークムント・フロイトの曾孫にあたるそうです。彼を見ていて思うのは「姿勢がとてもよい」ということ。
そして警視正イアン・シンクレアと動きをともにする、ロンドン警視庁からやってきたケビン・ソールズベリー警部補を演じているのがロバート・グレニスター。この方もたくさんの作品に出演していますが、私にとっては知らない俳優さん。青年時代のケビン・ソールズベリー巡査を演じているのは、ロバート・グレニスターの実の息子トムであるとのこと。
ふたつの殺人事件はきっかけに過ぎなかった
「この物語は作者が育った集落で起きた、ふたつの殺人事件から着想を得ています」とある通り、ふたつの殺人事件は材料や触媒に過ぎないところが本ドラマのポイントのひとつです。
ふたつの殺人事件とは以下のふたつ。
- 被害者ギャリー・ジャクソン:元炭鉱労働者。全国炭鉱労働組合(NUM)を支持。30年前の「スト破り」に加担した労働者たちとその家族を嫌悪・敵視。今だに何かにつけ「スト破り」と言いがかりを付けてしつこい。一部の人たちからすると “目障りなクソじじい”
- 被害者サラ・ヴィンセント:トーリー党(保守派)に所属する議員。住宅金融組合に勤務するニール・フィッシャーと結婚したばかり。サラ・ヴィンセント役は「ダウントン・アビー」でアンナ・ベイツを演じたジョアン・フロガット。彼女もこのドラマでは早々に殺害され、それ以降は出てこない
これら殺人事件以外にも、何者かに命を狙われる人たちが出てきます。
事件の真犯人を追う警察。そのプロセスで、炭鉱労働者のストライキを巡る、この集落の過去から今に至るまでの人間社会の歪みが描かれていきます。むしろ、そちらのほうが殺人事件の真相より重いメインテーマに見えます。視聴者には犯人が早々にわかる作りになっています。
過去の出来事とドラマを形作っている因縁
ドラマを視聴するに伴い、ジワジワかつ小出しにいろんな事実が明らかになっていきます。ネタばれしない程度のおぼろげな表現で書き留めておきます。
- ノッティンガムシャー警察の警視正イアン・シンクレアの父は炭鉱労働者だった。イアンと弟は警察官であり、ストライキや抗議行動に対処する立場にあった
- ギャリー・ジャクソンは全国炭鉱労働組合(NUM)を支持。民主炭鉱労働者組合(UDM)に属する労働者たちはストライキに参加しなかった。ストライキに参加した人たちと「スト破り」の人たちの間には長年のわだかまりがある
- 警視正イアン・シンクレアとロンドン警視庁のケビン・ソールズベリー警部補は1984年当時、知り合いだった(ケビン・ソールズベリーは地元警察の応援のためにロンドンから派遣されていた。後年、ギャリー・ジャクソン殺害事件によりふたりは再会)
- 殺人事件被害者のギャリー・ジャクソンは1984年10月に放火罪で逮捕されたが、ロンドン警視庁ケビン・ソールズベリー巡査の仲裁によって告訴を取り下げられている(黒塗りにされた当時の資料が存在)。当時イアン・シンクレアも巡査だったので、イアンのほうが出世したことになる ⇒ 1984年10月の事件の真実を警視正は特定したい。これがひとつ目のタスク
- 1984年当時、炭鉱集落には特別デモ捜査班(SDS)の捜査官が潜入しており、任務を解かれた後も撤収せず、一般人としてそのまま村で暮らしているという噂があった。殺人事件の犯人はその人物を追っているのでは、との推測がなされた ⇒ “村人になった潜入捜査官” は本ドラマにおける最大の謎であり、警視正と警部補は真偽を明らかにしようと捜査を続ける
エピソードは6つあり、ボリューム感としてほどよいです。殺人事件の突飛さや猟奇性で衆目を集めるのではなく、集落の過去の出来事に焦点を当てて謎を探っていく点が秀作だと思います。