“生きづらさ”に共感する映画「ブロークバック・マウンテン」と「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」(2)

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主に「ブロークバック・マウンテン」について書いたものはコチラ(↓)です。

“生きづらさ”に共感する映画「ブロークバック・マウンテン」と「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」(1)
今風に表現すると“LGBTQ”問題が含まれる映画。(1)は主に「ブロークバック・マウンテン」について書きました。

(2)で取り上げる「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」ですが、Netflix版は以前視聴したときにあった場面が削られている気がしたので、Amazonプライムビデオでも観てみました。しかし内容は同じでした(演算処理マシンに向かって主人公が “クリストファー” と呼びながら取り乱しているシーンなのですが、最初からそんな場面はなかったのかも)。

第二次世界大戦中のイギリス情報局で、誰も解くことができなかったドイツ軍の “エニグマ” から生成される暗号の解読に取り組んだ天才数学者アラン・チューリングの伝記に基づく映画です。

1951年、マンチェスターにおいて、ケンブリッジ大学教授アラン・チューリングは男娼を買った件で取り調べを受けます。彼の軍に関する履歴は機密事項として扱われていました。取り調べのプロセスで、第二次世界大戦中の彼の決して公表されることのなかった任務と成果が語られます。

【イミテーション・ゲーム】ドイツの暗号機 “エニグマ” とは

1939年、イギリスはドイツに宣戦布告。数学者チューリング(ベネディクト・カンバーバッチ)は “ブレッチリー無線機器製造所” を面接のために訪問(ブレッチリー・パークはロンドンの北の方角に位置する町)。ドイツの暗号機 “エニグマ” の解読任務に従事することを望んでのことです。

ドイツ軍のすべての奇襲作戦の詳細、極秘の輸送船団、Uボートの情報が “エニグマ” に入り、暗号化されます。イギリス側は通信を毎日傍受していましたが、解読には “エニグマ” の設定を知る必要がありました。ドイツ軍は毎日朝6時に通信をスタートし、深夜0時に設定変更を行うため、暗号解読は18時間以内に行われねばなりません。

暗号はAMラジオでさえ傍受できましたが、“エニグマ” の設定の可能性は159000000000000000000通りあり、それらをひとつひとつ試す必要がありました。10人が1分間でひとつの設定を試す(=攻撃をひとつ阻止する)として、おおよそ2000万年かかるところを、最長でも20分に収めなくてはならないと試算されました。

ドイツ軍の設定変更に合わせて、暗号解読チームはその日の解読を0時までに完了させねばならないのですが、未完了で振り出しに戻る日々を過ごしていました。

【イミテーション・ゲーム】君は異質だから

暗号解読チームにはイギリスのチェスチャンピオンのヒュー(マシュー・グッド)を始め、暗号解読に長けた人材が集まっていました。しかし、数学者チューリングが尊大な態度をとって協力姿勢を欠いたため足並みが揃わず、作業効率が上がりません。彼は他者の言葉を言葉通りにしか解釈できず、言外のニュアンスを読み取ることが苦手でした。

そういう人間なので、メンバーたちと別行動を採り、ひとり黙々と演算処理マシンを作り続けます。人間の処理能力では “エニグマ” にどうしたって対抗できないというのが彼の考えでした。メンバーたちの訴えによりチューリングは解雇されそうになりますが、彼はチャーチルに手紙を書いて責任者の座につきます。責任者となった彼は独断で数名を解雇。不足した人材を、クロスワードパズルを用いて補充します。

チューリングはパズルの試験で突出した能力を示したジョーン・クラーク(キーラ・ナイトレイ)とジャック・グッドを採用します。なかでもジョーンに関しては、彼女の両親を自ら説得するほどの熱意をもって迎えました。

チューリングはシャーボーン・スクール(恐らく寄宿学校)の生徒だった頃、執拗で陰湿なイジメに遭いました。そしてクリストファーという同級生に助けられます。彼は言いました。「イジメられるのは君が異質だからだ」「だけど時として誰も想像しないような人物が想像できない偉業を成し遂げる」と。暗号文を作ったり、解読したりが向いていると勧めたのもクリストファーでした。

唯一の女性であるジョーンは、自分に対して熱意をもって便宜を図るチューリングに動機を尋ねます。答えは「時として誰も想像しないような人物が想像できない偉業を成し遂げる」というものでした。

彼は集団において非常に異質な人間でしたが、クリストファーの言葉通り「誰も想像しないような人物が想像できない偉業を成し遂げる」ことに成功します。

【イミテーション・ゲーム】心の支えは“クリストファー”

シャーボーン・スクール在学中、チューリングとクリストファーは紙に暗号を書いてやりとりすることがありました。文面は「親愛なる友よ。長い2週間が過ぎたら会える」といった深読みもできるし、社交辞令とも受け取れる内容です。チューリングはクリストファーに対して恋心を抱いていました。

コミュニケーションや対人関係の有り方、振る舞いが独特で、異質であるがゆえに “生きづらさ” を抱えていたチューリングにとって、彼に理解と親愛を示すクリストファーとの関係はかけがえのないものでしたが、休暇が明けても彼は宿舎に戻らず、死んだことを知らされます。

当時の社会において同性愛はタブーであったため、恋心を否定する必要から「クリストファーとは親しくなかった」と校長に説明するチューリング。彼は “エニグマ” を解読することを目的とした自作マシンに “クリストファー” と名付けます。男娼を買ったとしても、心から愛しているのは忘れられない “クリストファー” であり、常に共にありたいと願い、心の支えになる存在だったと考えられます。

【イミテーション・ゲーム】敵を欺くための統計学

2年の試行錯誤の末、チューリングたちは “エニグマ” の解読に成功します。それがドイツ軍の知るところとなると傍受していた通信が途絶え、設定や構造に対し早急に変更が加えられると予想されます。

したがって解読に成功したことを察知されることなく人的/物的被害を最小限にし、戦争を早期に終わらせる手法の開発が求められました。阻止する攻撃、無視する攻撃を統計的に分析して決めるのです。

ドイツ軍はもちろんのこと、イギリス軍をも欺いて情報をリークしていきます。その作戦を秘密裏に展開すること、さらに2年。6人のメンバーが日々計算し、生きる人々と死ぬことになる人々を決めました。人間としての情を前提にすると辛い仕事でしたが、彼らは原理原則を貫きました。

戦いに勝利した後チームは解散、すべての資料を焼き払い、装置を破壊し、知り得た秘密を口外せず、メンバーは今まで一度たりとも会ったことのない間柄としてバラバラに散って生きることを命じられます。その後、この作戦は50年に亘って機密事項とされました。

【ふたつの映画】モノに“生きる意味”が宿るとき

映画「ブロークバック・マウンテン」について書いた(1)を踏まえると、同性愛者かどうかは “求める同性が2人以上いたかどうか” によると思います(かなり雑な基準です)。それで言うと「ジャック→○(イニス以外にも関係した同性がいる)」「イニス→△(ジャック以外の相手は異性のみ)」で、「イミテーション・ゲーム」のチューリングも男娼を買っているので同性愛者(○)となります。ふたつの映画は、アメリカでもイギリスでも、近年まで同性愛がタブーであったことを示しています。

映画「イミテーション・ゲーム」におけるマシンの “クリストファー” は、映画「ブロークバック・マウンテン」における “血の付いたふたりのシャツ” と同じ位置づけです。それらは単なるモノや遺品以上の意味や役割をもっています。孤独を癒し、全身を愛で満たし、生き続けることに意味を与えます。彼らにしてみれば、それらのモノには尊い命が宿っているのです。何かの拍子にそれらが失われたとしたら、相当な失意と喪失感に陥ることでしょう。人生に生きる価値を感じられなくなるかもしれません。

数学者チューリングはアスペルガー症候群だったのでは、とも言われていますし、作品中でも自身の行間を読む能力の欠如を自覚していますが、機械のような人間だったわけではありません。同級生のクリストファーを愛し、ジョーンと信頼関係で結ばれ、最初はトラブルばかりでしたが最終的にはチームのメンバーから強力なバックアップを得ています。そしてモノに意味や価値を見出すというのは、生身の人間であることの証左、人間に特徴的な機能です。

“モノに意味づけをしたり、執着したりすること” の陰には、それなしではストレスが多大になるような “生きづらさ” や “欠落感”がある場合が多いように、私には見えます。意味づけがポジティブなものであれ、ネガティブなものであれ、ある種の防衛機制です。

【イミテーション・ゲーム】エリザベス女王による2013年の恩赦

さて、有罪で化学的去勢を受け入れたチューリングに話を戻します。心身がボロボロの彼に対し、彼の頭脳がどれだけの街と人命を救ってきたかをジョーンは説きます。彼が “普通じゃないこと” が世界にとって、いかに救いとなっているか、どれだけ類稀なことを成し遂げたのか。「時として誰も想像しないような人物が想像できない偉業を成し遂げるのよ」

1年のホルモン投与の後、アラン・チューリングは1954年に41歳で自殺(時代が違うとはいえ、若いですよね)。本当のところは分かりませんが、“クリストファー” とともに偉業を成し遂げたことに納得し、人生の完了を感じたのではないかと想像します。再び “クリストファー” とともに何かに立ち向かう未来が、いよいよ想定できなくなったのでは。健康状態の悪さもあったことでしょう。

1885~1967年において、イギリスでは約4万9000人の同性愛者(男性、女性合わせて)がわいせつ罪で有罪となったそうです。2013年、エリザベス女王はチューリングに恩赦を与えましたが、死後約60年経ってからのことです。恩赦になったのは彼だけで、戦時中の貢献によるものでしょう。だったらもっと早期に報いなさいよ、と思いますが、この作戦(プロジェクト)は長きに亘って機密事項とされてきました。戦後約70年、そして死後約60年経っても対処はするのですから、イギリス王室には見どころがあります。

チューリングによる解読は戦争終結を2年以上早め、1400万人以上の命を救ったとされ、彼のアイデア(情報処理演算装置)は、現代のコンピュータへと引き継がれています。

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