北欧ノワールはスリラー/サスペンスのなかでも好きなカテゴリーです。
そして「チェスナットマン」。シーズン2公開を契機にまとめて書くことにしました。
引き続き “日陰の湿った土から漂う、カビ臭を感じさせる佇まい”。喩えるなら、そんな風合いの作品。北欧ノワールのなかでもひと際、陰鬱な成り立ち&カビ臭さが印象に残りますが(あくまでも当人比)作品としての評価は高く、各シーズン6エピソードとほどよくまとまっている点もよいです。
原題は “Kastanjemanden”。デンマークの作家で脚本家でもあるセーアン・スヴァイストロプの同名作品を原作としています。
シーズン1・2ともに登場する人物
- ナイア・トゥーリン:シーズン1ではNC3(サイバー犯罪部門)への異動を希望しているコペンハーゲン警察の捜査官。シーズン2ではNC3(サイバー犯罪部門)のメンバーとして働いている
- リー・トゥーリン:ナイア・トゥーリンの娘。シーズン1と2の間で随分と成長(…と思ったら、演じる人が替わっていた)。母の恋人たちに好意的態度というか寛容なので、父性を求め続けているのかもしれない
- マーク・ヘス:シーズン1ではユーロポール(欧州刑事警察機構)で何かやらかし、コペンハーゲン警察へやってきた調査官。ナイア・トゥーリン捜査官の相棒を一時的に務める。人生が上手く回っていないこともあって、仕事に対する熱意を欠き、現場で働く人たちを軽んじる男。しかし不可解な事件を目の前にし、独自の発想と粘り強さで主体的に捜査にあたるようになる。シーズン2では、兄が緊急搬送されたことでコペンハーゲンに戻ってきたタイミングでコペンハーゲン警察から連絡を受ける。再びナイアらとともに捜査に尽力する。電話でのみ登場するフランソワはユーロポールの同僚
- アクセル・ラーケン:ナイア・トゥーリンの血のつながっていない父。元警官。シーズン2では過去の類似事件を思い出し、ナイアに情報を提供する
- フランク・アビルゴール:殺人課の捜査官。シーズン1ではナイアの同僚。ストーリーやナイア&ヘスに大きく絡むことはないのだが、シーズン2でも引き続き殺人課の捜査官で、サラ失踪殺害事件のタスクフォースのメンバーのひとり
シーズン1:チェスナットマン(2021)
鍵になるのは “チェスナットマン”。
導入部あらすじ
1987年、デンマークのメン島。警官のマリウスがウロム宅を訪れます。彼の牛が逃げたことが問題のようでした。ウロムの姿を捜していたマリウスは、彼の豚が殺されているのを発見。家の中に入ると妻と息子、娘の遺体があり、幼い少年は一命を取り留めていました。
電話で応援要請を依頼するマリウスは「すぐにそこを出るように」と言われますが、地下の一室に足を踏み入れます。そこには栗(チェスナット)で作った人や動物が並べられていました。そこでアストリッドという少女を見つけますが、何者かによって襲われたマリウスは絶命します。
場面は変わり、現在(10月6日)のコペンハーゲン。ナイア・トゥーリンは娘リーと暮らしています。彼女はシングルマザーで、セバスチャンと肉体関係にあるようです。
コペンハーゲン警察の捜査官であるナイアは、ユーロポールの調査官マーク・ヘス(やる気がなくチャラい男)を数日間の相棒としてあてがわれ、女性殺害事件の現場へと向かいます。被害者はラウラ・ケア。左手首から先を切断され、拘束された状態で公園で発見されました。そこには栗(チェスナット)で作られた人形が置かれていました。
昨年、娘クリスティンを誘拐殺人事件で亡くした社会大臣ローザ・ハルトゥングは、休職を経て国会に復帰しようとしていました。しかしローザや夫のスティン、息子のゴスタウは事件のショック、トラウマから立ち直りきれていません。なお、犯人は逮捕されましたが、遺体は発見されていない状況です。
彼女宛てにクリスティンの写真付き脅迫メールが届き、事務次官エンゲルスは情報局保安部(PET)と共に送信者の特定を進めています。
公園のラウラ・ケアの遺体の傍らにあったチェスナットマンから、クリスティン・ハルトゥングの指紋が発見されます。社会大臣のローザによれば、娘のクリスティンは毎秋、露店を出して友人マチルデとともにクッキーや飲み物、チェスナットマンを売っていたとのことでした。
いっぽう夫エーリクとの生活に苦しんでいたアンネ・サーエ=ラッセンは、娘たちを連れて家を出ることを決めます。その準備をしているとき、写真立ての脇にチェスナットマンが置かれていることに気づきます。彼女の遺体が両腕を切り落とされた状態で、森で発見されます。
被害者相互に面識はなかったと考えられ、不可解かつ猟奇的な事件に共通していたのがチェスナットマンでした。
登場人物
[1987年の事件関係者]
- マリウス・ラーセン:メン島の警察官
- ウロム:メン島の住人。農場を経営。妻と息子と娘、そのほかに里子たちがいた
- ジョン・ブリンク:事件を担当した捜査官(マリウスの後輩にあたる)。現在は署長。妹はヨハンナ
[捜査官ナイア・トゥーリンの関係者]
- セバスチャン:ナイア・トゥーリンと肉体関係がある(ナイアは娘リーに対し「一緒に寝ているが恋人ではない」と説明していたが、恋人なのかもしれない)
- ニュランダ:ナイア・トゥーリンの上司で殺人課のチーフ
- シモン・ゲンツ:法医学研究所長
- マーティン・リックス/ティム・ヤンセン:刑事
[社会大臣ローザ・ハルトゥングの関係者]
- ローザ・ハルトゥング:社会大臣。当時12歳だった娘クリスティーヌが誘拐、殺害されたことをきっかけに休職中だったが復帰する。夫はスティン、息子はゴスタウ
- リウ・クリスティアンセン:社会大臣の秘書(庶務/広報寄り)
- フレデリック・フォーゲル:社会大臣の秘書(政策寄り)
- ジェイコブ・ラスゥーリ:社会大臣の新しい運転手
- エンゲルス:事務次官
- リヌス・ベッカー:社会大臣の娘を誘拐、殺害を自供。妄想型統合失調症
- マチルデ:クリスティンの同級生
- ゲルト・ブーゲ:野党議員
- バイラン:リヌス・ベッカーの担当医
- トーケ&アストリッド:孤児で双子。姓はベーリング
- ポール&キルステン・ピーターセン:オシェーレト市に住む夫婦。2カ月の間、トーケとアストリッドを里子にする
[歯科助手ラウラ・ケア殺害事件の関係者]
- ラウラ・ケア:就寝中に襲われ、遺体が公園で発見された37歳の歯科助手。息子マグヌスは10歳で自閉症の疑いあり。恋人はマッチングアプリで出会ったハンス・ヘンリック・ハウゲ
- エーリク・サーエ=ラッセン:ラウラとなにがしかの接点があったことが疑われた男
- アンネ・サーエ=ラッセン:エーリクの妻。何者かに襲われる。長女はソフィア、次女はリナ
- ピーター・ホイガード:国立病院の医長
- ベネディクテ・スカンス:小児科の看護師
- ジェシー・クヴィウム:娘オリヴィアを虐待していると社会福祉課に匿名通報された母。セフレはニコライ・ムラー
感想&メモ:真犯人の無双っぷりに目を奪われる
結末を知ってしまえば、複数の事件の構造(真犯人からのメッセージ)がシンプルであることがわかるのですが、捜査に伴って情報が小出しにされていくので、遺体の発見されていないクリスティン・ハルトゥングは一体どうなってしまったのか、どうなっているのかは最後までわかりません。
いったんは捜査から手を引いたはずのナイア・トゥーリン捜査官、マーク・ヘス調査官らが事件解決に向かって再び戦いを挑みます。しかし真犯人は手ごわく、簡単に打ち負かされてはくれません。満身創痍の彼らがどのように事件を終結させるのか、目を離せなくなります。
捜査を共に行ったナイア・トゥーリンとマーク・ヘスの間には絆、あるいは恋心らしきものが芽生えます。でもふたりは空港で別れ、ヘスは次の任地ルーマニアへと向かう…という終わり方になっています。
社会大臣の娘の誘拐ならびに殺害の罪に問われたリヌス・ベッカー役のエリオット・クロセット・ホヴは、ナイアの義父で白いロン毛が目印のアクセル役、アンダース・ホヴの実の息子。アンダース・ホヴはトランプ米大統領が獲得したがっているグリーンランドの出身であり、彼の父は同地の政府樹立に関わった重要人物であるそうです。
シーズン2:かくれんぼ(2026)
鍵になるのは “数え歌”。
導入部あらすじ
1992年、ホーンスヘレズ(デンマーク東部ジーランド島のロスキレフィヨルドとイセフィヨルドの間にある半島)から物語が始まります。小学生たちを乗せたバスが走っています。野外学習に出かけるようです。
森の中で偶然、カッコウのヒナが生まれる瞬間に立ち会う子どもたち。その後、数え歌 を歌いながらの “かくれんぼ” に興じ、同級生を探していたイミールは湿原で、鳥の巣を模した枝の上に男の子ダニエルの遺体を発見します。
そして33年後の今、場所はコペンハーゲン。路線バスの降車ブザーを押す女性サラ。直後にスマホへの着信があり、近くから彼女を撮影したことがわかる動画が届きます。盗撮、監視をされていますが、誰によるものかは不明のまま。数え歌を、サラにちなんで替え歌にしたものもテキストでスマホに届きます。彼女は正体不明の誰かにストーキングされているようです。売りに出している自宅へ戻った後に “Fundet!(見つけた!)” のテキストメッセージが届き、サラは姿を消します。
コペンハーゲン警察のNC3(サイバー犯罪部門)に所属するナイア・トゥーリンは失踪したサラの家に出向き、IT捜査を行います。行方不明となったデザイナーのサラが、かねてよりストーカー被害に遭っていたためです。
場面は変わってコペンハーゲンに向かう旅客機の中。ユーロポールの調査官マーク・ヘスが乗っていて、着陸態勢に入ります。ハーグ在住の彼は、緊急入院してICUにいる兄ヨン・ヘスを訪れます。待合室で見ていたテレビ番組によって、マークは未解決事件について知ります。2年前、パーティーからの帰宅途中に行方不明となった当時17歳の高校生エマ・ホルストのケースです。失踪翌日、彼女は老夫婦によって遺体となって発見されたのでした。
エマの母マリーは娘の殺害事件についての控訴を却下され(犯人は捕まっていないんですけれどね)心痛が癒えません。マリーは高校で教師をしていますが、入学希望者の減少に影響していることを理由に校長から休みを取るよう促されます。
いっぽうストーカー被害に遭っていたデザイナーのサラ。失踪した彼女の受け取っていた動画やメッセージを精査するプロセスで、サンドラとナイアは東欧のIPアドレスに辿り着き、同じIPアドレスがエマ・ホルスト殺害事件資料にもあったことを知ります。
彼女たちの上司がエマのケースが “捜査終結” したことを告げますが、凶悪犯罪のようであればユーロポールに働きかけることで意見が一致。上司はマーク・ヘスに連絡することを提案します。
サンドラとナイアのやりとりから “ナイアとマークは半年くらいデートをする仲だったものの、ある日、彼が姿を消した” ことが判明。後味の悪い別れ方であったようです。
シーズン1の最後にマーク・ヘスは次の任地ルーマニアへと旅立ったはず(現在の居住地はオランダのハーグであるらしい)。とりあえず、シーズン1と2の間にふたりの関係は多少なりとも深まり、ナイアの娘リーもマークを慕っていたようです(「2年前の話」と言っていたので、ちょうどエマ・ホルストの事件が起きた頃にあたります)。
マークがコペンハーゲン西部警察の事件資料をあたっていたところ、エマ・ホルストも生前ストーカー被害に遭っており、数え歌のメールを受け取っていたことが判明。IPアドレスと数え歌の一致により、ふたつの事件の関連が浮かび上がります。
その後サラの遺体が森の中で、鳥の巣のように木々を集めた上に置かれているのが発見されます。
ほかにも盗撮動画送り付け(ストーキング)&数え歌の被害者が現れ、シーズン1のチェスナットマン同様、共通項はあるものの被害者相互に面識のなさそうな事件が続きます。
登場人物
[捜査官ナイア・トゥーリンの関係者]
- サンドラ・リンストロム・イエンセン:NC3(サイバー犯罪部門)の捜査官でナイアの同僚。金髪ボブが目印。タスクフォースのメンバーとなる
- エスラ・フォレーヤ:殺人課のチーフ。部下の捜査官ルイス・スコウビャとナイアを中心にタスクフォースを組ませる
- セバスチャン・ヘイダリ:コペンハーゲン西部警察の捜査官。タスクフォースのメンバーとなる
- ゴナ・ハステッド:義父アクセルの同居人。彼のパートナーと思われる
- ビョーン:娘リーの同級生の父
- クビストゴー:検死・鑑識官と思われる
[デザイナー/サラ・ソラク拉致殺害事件の関係者]
- サラ・ソラク:41歳のシングルマザー。ビズオウアのデザイナー。娘は元夫のもとで過ごすことがある
- マスン:サラの元夫
- ヤコブ・ホイヤー:サラの現在の恋人
[高校生エマ・ホルスト殺害事件の関係者]
- エマ・ホルスト:2年前、パーティーからの帰宅途中に行方不明となり、その後遺体で発見された。元カレの名はオマー
- マリー・ホルスト:エマの母。高校教師。娘の死によるトラウマを癒すため、グリーフセラピーに参加。エマの事件に関する控訴が却下され、捜査終結となったことにショックを受ける
- トーア・ホルスト:マリーの息子。母親の勤務する高校の生徒
- モリー・ホルスト:マリーの娘(次女)
- ミケール・ホルスト:マリーの元(もしくは別居中の)夫。現パートナーはルイース・ロサガー
- シーネ・ボーン=ムラ:グリーフセラピーのメンバー。40歳
- ボー・モーテンセン:マリーの職場の同僚で美術教師
- シリア:エマの友人。高校3年生
[双子の父アンドレアス拉致殺害事件の関係者]
- アンドレアス・ロン:何者かが撮影した盗撮動画を送り付けられる。数え歌のテキストメッセージも受け取る。職場のボスはカーステン
- アニカ:アンドレアスの現在の妻
- ソフィ・アントンセン:アンドレアスの元妻。彼との間にルーカスという息子がいる
[類似ストーキング事案の関係者]
- ディデ・クルスタ:家族法庁が元夫によるストーキング、協議離婚に伴う娘たちの親権について相談に乗っている。現在の恋人はリーナ。動画と数え歌のテキストメッセージを受け取る
- ピータ・ホウゴー:IT技術者でディデの元夫。見た目は優男だが、激しやすく粗暴。かつ思慮が浅い
- オーレ・ウスタゴー:家族法庁のケースワーカー
[1992年の事件関係者]
- トゥーヤ・ストール:少年殺害の容疑者で小児性愛者。41歳のトラック運転手。取調室で数え歌を歌う。妻アンジェリカは36歳のポーランド人で清掃員。娘はティア
- ラース・トゥーリン:ナイア・トゥーリンの父。ストールの取り調べを行った。ナイアの実父と継父アクセルは警官仲間だったと考えられる
- ビニー・マスン:ストールの野鳥観察仲間
- ビャーケ・マイスナー:野外学習を引率していた小学校の教師。カッコウのヒナの死骸に関する報告を行った
感想&メモ:ナイア捜査官が去って後のさらなる急展開が見もの
シーズン2はピータ・ホウゴーが “盗撮とストーキング、数え歌の連続殺人犯” にされそうになった辺りからが、いちばんの山場となります。
シーズン1も2も、親(大人)の因果が子に報い、あるパターンに反応して悪魔の回路にスイッチが入る、それは成育環境&DNAによるものなのか、そんなお話でした。おかしな人物が親になると、その子どもが酷い目に遭うだけでなく、親のもっている歪みを子ども自身がその人格や嗜好に内包してしまうということでもあります。
真犯人を突き動かしている原理原則はシンプルですが、現象面だけに注目すると重層的で複雑怪奇な事件に見えます。そこに面白さを感じました。よくできた作品だと思います。
ナイア・トゥーリンがエピソード3で去ったのは意外でした。どう考えても主人公のひとり、重要人物でしたから。「チェスナットマン」にシーズン3以降があることをひしひしと感じさせる作りにしなかったところは潔かったと思います。ナイアが去っても、物語を続ける道はいかようにもあるとは思いますし、娘のリーは、ユーロポールを辞める決心をしたマークと家族のように暮らすみたいです。
