“自己納得”のものさし、成熟のための方向性と提案(1)


このように、求める“自己納得”のありようと包含している問題の質は、若年層各人の立ち位置によって異なっている。そして、それらスタンスは、必ずしも彼ら自身の要因のみによって決定されるわけではなく、社会環境や社会構造といった外的要因の影響のもとに形づくられている。

社会問題として取り上げられるようになってきた“フリーターの増加”は、フリーター個人の資質や能力の問題に帰せられるケースが散見される。“フリーター”というチャレンジングな生き方を示す言葉が誕生した時分は、産業も好景気であった。その後、経済が停滞し、フリーターのもつ意味合いは空洞化し、就職できない人、何をやりたいかが分からない人、親の庇護の元で暮らすパラサイトなどが参入し、スキマ労働者の総称となった。

また、かつては新入社員を家族のように迎え、一から教育していた日本企業も、産業のグローバル化、景気の低迷により、即戦力になる人材を求めるようになった。その時流に対し、学校機関、地域社会においては、社会への橋渡しとしての職業教育が機能していないという問題も抱えている。

本調査研究の方策提案は、消極的スタンス、積極的スタンスを問わず、若年層が“自己納得”を生活価値の軸とすることを否定しない。あくまでも社会構造面から、より健全で成熟した“自己納得”を可能にするようなサポートが必要であることを指摘するものだ。

より短期的には、停滞社会における社会問題となりつつある、増加しつづける“消極的フリーター(将来に対するビジョンなし)”に対するサポートを考えねばならない。以下に、いくつかの案を示す。

 

【“消極的フリーター”の課題とサポート案】

若年者に対する安定雇用の促進
主体:政府・地方自治体(厚生労働省ほか)
・高学歴ではない若年者を正社員として積極的に雇用する企業を対象に、教育給付金等のインセンティブを設ける
主体:企業(または政府・地方自治体主導のもとに企業)
・既存社員の残業カットや有給休暇取得を促し、生まれた労働枠を若年正社員雇用に振り分けることを推進する
・退職後2年以内の若年者を積極的に再雇用することにより、既に投下した教育・研修コストを有効活用できることに目を向ける
・フレックスタイムなど時間の自由度が高い仕組みのなかで、働くことのできる制度を積極的に導入する
能力への自信と社会的アイデンティティ確立の促進
主体:政府・地方自治体(厚生労働省ほか)
・有望な職種、必要スキル、スキルを身につける手段、学習できる場所など、トータルな情報提供を継続的、体系的に行なう
主体:企業(または政府・地方自治体主導のもとに企業)
・パート・アルバイトの企画・提案、会議への参加を促し、非正社員活用を企業・フリーター両者にとって有意義なものにする
主体:大学・高校・中学など
・卒業校による就職や職業に関する継続的な指導と情報提供(好きなことの発見、適性診断や「やりたいこと」と「できること」のギャップの見定め)を受けられるようにする
主体:NPOや自助サークル
・フリーターによる労働組合設立、情報交換ネットワークの構築による相互扶助、コミュニケーション機能を実現し、若年者が似たような人たちとの関わりのなかから善後策を見出せるようにする
・脱競争、スローライフサークルなど、多様な生き方を認める「若者の居場所・避難所」を作ることをサポートする
・価値観や年代の異なる人との日常的コミュニケーションのチャンスを作り、人間性やコミュニケーション能力を磨く機会を設ける

 

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