どん底の父子の再出発を描くベネズエラの映画「報復の街をあとに ペドロ12歳の旅立ち」

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作品説明はこんな感じです。

ベネズエラの首都カラカスの労働者階級地区に住む、アンドレスと12歳の息子ペドロ。仕事で留守がちなアンドレスは息子に一人で学び一人で生きていけることを期待するかのように、ほぼ放任にして暮らしていた。ある日、ペドロが悪友たちと遊んでいると、銃をもった少年に脅される。

Amazonプライムビデオより

上記を読まずに映画を観ると分かりづらい面があります。

ペドロの生活拠点は “労働者階級地区” 、銃をもった少年の家は “スラム” にあります。 “労働者階級地区” のほうが “スラム” より程度が上という位置づけ。そして “スラム” は映画に出てきません。主人公の少年ペドロが暮らしているコミュニティが “労働者階級地区” であることを知ったうえで映画を視聴しないと、そこですら “スラム” に見える暮らしぶり、子どもたちにとっては劣悪な成育環境です。

また『仕事で留守がちなアンドレスは息子に一人で学び一人で生きていけることを期待するかのように』とありますが、この父親が息子の教育についてどのように考えていたのかが分かるシーンはありません。

母親がおらず、父親のアンドレスと暮らすペドロ。父は不在がちで放任されています。ネグレクトと言えなくもない状況。ジョニーという友だちがいて、彼の家によく出入りし、彼の母親から兄弟のように遇されています。

ペドロの生活拠点である “労働者階級地区” の子どもたちの立ち位置は “不良予備軍(グレイゾーン)” あるいは “素行の悪い少年少女” 。見る限りにおいて気品と教養がありません。社会の平均的水準をかなり下回っているように見えます。そこしか知らずに育った子どもの身になって想像すると、朱に交わって赤くなって暮らしていれば日々それなりに楽しいのかもしれません。

子どもたちの荒んだ暮らしぶりを見た段階でショックを受ける人も少なくないように感じられます。そのような子どもの世界も大人たちの似姿なのでしょうけれど。

[物語の流れ]

ある日ペドロ(12歳)は重大な事件を起こす(当人にとっては相応の理由がある) 相手が “スラム” の少年と知って命の危険を感じた父アンドレスはペドロを連れて逃げる ペドロは自分を庇護しようとしている父親に対して罵詈雑言&反抗ばかり そんな息子ペドロに粘り強く対峙する父アンドレス 父と共に働かされたり生身の父の苦労を目の当たりにしたりする日々によってペドロに変化が起きる それでもペドロは “労働者階級地区” の暮らしに戻りたい 抜け出して親友ジョニーの家を訪問 既に自分の居場所がないことを知る さらに続く

私は中高年に属するので『孟母三遷の教え』の正当性をこの映画から感じます。子どもは環境から学んだことを自らの行動や価値観に取り込んでいくため、子どもの教育を大切に考えるのであれば環境を主体的に選ぶことが重要だという中国の教えです。

専門学校の教員をしていた時期が私にはあります。判断力が十分に育っていない段階で学生に好き放題させて崩壊したクラスを立て直すのは至難の業で、始めから最大限の配慮と関わりを維持してきたクラスの成長に投下する何倍ものエネルギーを要します。

立て直すことができたとしても、順調に育てることに成功したクラスと同じレベルに到達することはまずありません。

手を抜くことで最終的に苦労や手間が増えて満身創痍となり、最終的に広い意味でのコスト負担が多大になります。何でもコストに換算するのはどうかという考え方も成立しますが、最初から丁寧に育てられるほうが青少年の心身の負担も少なくて済み、例外はあっても建設的な道であると思います。そしてどういう育てられ方をしたとしても、大人の思惑とは無関係に子ども自身が勝手に育っていく面があります。

息子ペドロがまずいことをしでかしたことにより、アンドレスは父親として真剣になる機会を得て、父子が家族としての絆を辛うじて取り戻し、別の場所で新生活の再建に着手する流れになったとも言えます。しかし父が息子に対して正直で真摯であり(みっともない姿も晒している)、息子も理解力を備えていたからこそ成立した物語と思います。

日々仕事を斡旋してもらうことで昼も夜も働く父親と、近い将来、本格的に道を踏み外すことになるかどうかの瀬戸際にいる息子が(恐らく初めて)正面から向き合って、再出発の入り口に至る姿が観る者を惹きつけます。息子は父親を、父親は息子を全面的に受け入れることで初めて互いに出会うのです。父親役と少年役、どちらも素晴らしい演技をみせています。

1時間半に満たない作品ですが中身は濃厚(1箇所重要な部分に字幕がないけれど想像で切り抜けられる)。スカッとしたエンディングではないものの重みある余韻を残します。長すぎる邦題(「報復の街をあとに ペドロ12歳の旅立ち」)の原題は “La familia”(家族)と超シンプルです。

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