イスラエルの強硬な姿勢もあって世界情勢が危険な綱渡り状態であるため、ドラマ「ファウダ-報復の連鎖-」の制作継続は難しいのではないかと思っていました。しかしイスラエルの意地なのか、シーズン5が公開されました。
これまでのシーズンも、いちおう現実を踏まえてのストーリーラインではありました(完全なるフィクションの世界と割り切って視聴することはできない内容)。シーズン5は2023年10月7日に起きたハマスによるイスラエル攻撃に端を発する物語となっているため、単なるエンタメとしての感情移入も難しい(あくまでも個人比)。巻き込まれたイスラエルの人たちも気の毒でしたが、国としてのイスラエルもハマスを超えるレベルの残虐さを行使してきていると思いますのでね。
折しも、シーズン5公開のタイミングで「2023年10月7日のイスラム組織ハマスによる大規模な攻撃の数日前に、イスラエルのネタニヤフ首相がアラブ首長国連邦(UAE)の大統領から作戦について警告を受けていた」とイスラエル紙が報道(一部イスラエル紙は忖度まみれの日本メディアと異なり、ジャーナリズムの精神を失っていないのかもしれない)。
あのベンヤミン・ネタニヤフ首相でさえ、イスラエル極右勢力のなかでは穏健派であるそうなので「人間と人間の作り出す世界って本当に怖いですねー」と思ってしまいます。
では、シーズン5について整理していきましょう。けっこう以前に書いた記事と体裁を揃えたうえで、情報を付け加えていきたいと思います。

シーズン5のあらまし
シーズン4の最後で特殊部隊の多くは大きな怪我を負い「誰かが命を落としたのでは」と思っていました。シーズン4時点の主要メンバーは生存しているようで、スティーブはイギリス、サギ&ヌリット夫妻はオーストラリアで生活しているという設定になっていました。
サギ役のイダン・アメディは兵士としてハマスとの戦い(2023年パレスチナ・イスラエル戦争)に参加。2024年1月、ガザ地区の爆発事故によって重傷を負ったイダンは、リハビリが長くなることを理由に2025年2月「ファウダ」からの離脱を発表(彼が本格的に登場すると国威発揚のプロパガンダ色が強くなっていたかもしれない)。ただし最終エピソードの最後に短時間姿を見せます。
これまでのシーズンと異なり、出発点となる対立図式が[組織 VS 組織]ではありません。ドロンたちは特殊部隊としての任務を解かれており、個人として国防組織の助けを受けながら2023年10月7日(アルアクサの洪水作戦)の復讐を遂げようとしたように見えます。
11エピソードのうち、エピソード7と8は2023年10月7日に実際に起きたことをベースとした描写となっていて、視聴に心理的抵抗感がある場合、その2エピソードを飛ばしても理解できるように組み立てられています。過去に遡ってのシーンも多く出てきますが、アルアクサの洪水作戦の2年後が “現在” という設定になっています。
- 対立図式:“2023年10月7日に子どもを失った父親たち+元イスラエル特殊部隊のメンバー” VS “ヌフバの部隊のメンバー”
- 注)ヌフバの部隊(エリート大隊)とは、ハマス軍事部門イッズッディーン・アル=カッサーム旅団(ガザで活動するパレスチナ合同作戦室における最大の武装組織)の特殊部隊
- 導入部分のあらすじ:ドロンらは特殊部隊の任務を離れ、それぞれの人生を送っている。時期をさらに遡り、エリと彼の家族(妻のハギット ⇒ 過去のシーズンでは “ハギエット” となっていたはず、娘リビーと息子ベンがいる)はキブツで暮らし、一家はベドウィンのサレムやその息子ユスフと親しい間柄だった。2023年10月7日、ハマスの攻撃によってエリとサレムは家族を失った。その2年後、殺害実行犯がマルセイユにいることを知ったエリとサレムは渡仏。その様子を訝しんだドロンは、IT関連企業の役員になっているギャビに促されて2人を追う。そして彼らの “血の復讐” を手助けすることになる
- “血の復讐” 実行メンバー:[元特殊部隊メンバー]エリ、ドロン、スティーブ [襲われたキブツの被害者家族]サレム
- 元特殊部隊メンバーとの連携/協力:ギャビ(IT関連会社の役員/すごく腹回りが太くなっている/一時的に戦略室に復帰する)、ダナ(公安庁(ISA)責任者/本シーズンで突如出てくる “シンベト” とは “ISA” のこと)、ナアマ・スドリ・キルシュ(シンベトの人たち)
- ポイント:ドロンとスティーブの間にはエリの妻子の死についてわだかまりがある(詳細な経緯をエリは知らないらしい)/マルセイユのハマス勢力内に内通者が複数存在している(イスラエルの情報源、フランス警察の情報源など)/個人(あるいは同志)による “血の復讐” だったはずが “かつて属していたシステム” とのギブ&テイクへと姿を変えていく/若かった頃はエキセントリックだったアナットが “普通のお母さん” になっている/ドロンの暴走とエリの暴走はどちらも手がつけられないが質(発火点)が異なる(立場が違うということもあるが)/山あり谷ありで本シーズンもハラハラドキドキできる
主な登場人物
[特殊部隊の関係者]
エリ(イーライ・アロン):2023年10月7日のハマスによる攻撃で、妻ハギットと子どもたち(リビー、ベン)を亡くす。その後はユダヤ人入植地で暮らしている
ドロン・カビリオ:同攻撃によってもたらされたPTSD(記憶喪失)に関してセラピーを受けている。パートナーは復縁したガリ
スティーブ・ハーツル・ピント:ロンドン在住だが、エリの要請に応えてマルセイユへ。感情が悪い方向に高ぶると暴力的なやり方でストレスに対処しようとする性質。元パートナーのアナット、息子のミハエルとは別れて暮らしている
ダニノ:エリやスティーブと動く機会の多かった兵士(ダナがエリを、ギャビがスティーブを招集。ダニノらと行動を共にするが、どちらも “特殊部隊” ではないような気がする)
[シンベト(イスラエル総保安庁/公安庁/ISA)関係者]
ギャビ(アユブ):IT関連会社(SOF.K TECH)の役員になっている。リアは現在の部下
ダナ(アミラ)・マルチアーノ:引き続きシンベト(公安庁)に所属。役職は部長。2023年10月7日に頭部に怪我を負い、その後遺症に苦しんでいる
ナアマ:ダナの上司
ミラン:ハマスの訓練キャンプに潜入しているケータリング業者
[フランス警察/情報機関の関係者]
ピエール・ブルーノ:捜査官で諜報員。マルセイユのハマス勢力(サイード・エル・ハティブ)と通じている
エマ:フランス情報機関のリーダー
[キブツで生活していた人たち]
ユスフ・アル・ホザイル:ベドウィン(遊牧民)の青年でアラブ系イスラエル人。イスラム教徒。2023年10月7日のハマスによる攻撃で命を落とす
サレム・アル・ハイブ:妻はヌザ。ユスフのほかにムサという息子がいる。キブツではエリ一家の隣人だった。イスラム教徒
[ヌフバ部隊(ハマス)関係者]
- イヤド・ダハドゥー:2023年10月7日におけるユスフ殺害の実行犯。パレスチナ人でガザ出身。1年半前に負傷者に扮してガザを出てマルセイユへ移住
- ラミ:マルセイユにいる情報屋
- ナジ・マフムード:イヤド・ダハドゥーのマルセイユの仲間。アルジェリア出身の商店主
- マヘル・ゼイトゥン:イヤド・ダハドゥーの指揮官。ガザ出身。マルセイユ在住で、ハマスが運営するユンマセンター(難民や移民のための非営利施設)で会計士として働いている。シンベトの情報源。妻はフランス人のアンネ
- サイード・エル・ハティブ:ガザ出身。マルセイユで組織のメンバーを集めている。ブルーノ捜査官と相互に情報を提供し合っている。カレムは部下
- アブ・ザヘル:ユンマセンターではマヘルへの指示役。いっぽうでサイード・エル・ハティブの副官という顔をもつ。ガザ出身で本名はイサム・シャバネ。10月7日の攻撃におけるラファ旅団の副司令官(…ということは厳密にはヌフバ部隊のメンバーではない)。別名 “ブッチャー”
- ハサン・ア・ナシリ:護衛。ガザ出身のパレスチナ人
- アラア・スリマニ:護衛。ヨルダン川西岸出身者
- ハリッド:イスラエル軍ドゥルーズ派504部隊の大尉を名乗る。アミール(ドロン)とアリ・マスラウィ(エリ)、アンネらを尋問する
- アマル:アンネと共に遠征チームに入った女性戦士
- アブ・カマル:在シリア。サイード・エル・ハティブに対し、ヨーロッパで集めた戦士たちによる次の作戦の中止を求める
感想&メモ:癒えることのない痛みは続く…
当初は異なるストーリーを考えていたらしい
2023年10月7日の攻撃(アルアクサの洪水作戦)が実行されたことによって、シーズン5の筋書きに大きな変更が加えられたそうです。当初の構想ではハマスのテロリストたちがイスラエルのキブツを占拠するというストーリーラインでしたが、突飛過ぎることを理由に受け入れられませんでした。
現実に追随する形で筋書きが変わったことにより「10月7日の攻撃に起因する個人的かつ国家的なトラウマの物語を届ける」ことがシーズン5のテーマとなりました。
“トラウマの物語”をどのようにとらえるか
例えばドロンたち特殊部隊は、これまでにも多くの戦いを重ね、たくさんの人たち(主に兵士やテロリスト)を殺してきましたし、敵の攻撃によって味方や部隊のメンバーを失ってきました。
ですから不可避の理不尽、物心両面の喪失、公私にわたる悲しみには慣れているように思うのですが、2023年10月7日の攻撃(アルアクサの洪水作戦)に関する、彼らの悲嘆やトラウマは群を抜いているように描写されていました。
それはイスラエルへの侵攻を伴う奇襲であり、多数の民間人の犠牲を食い止めることができなかったという力不足を痛感する出来事であり、(ドラマに限って言えば)兵士の家族も犠牲になったことにより一般人の立場で戦いを経験する機会であったからと考えられます。
ドラマでは2023年10月7日の攻撃(アルアクサの洪水作戦)によって①ドロンは一部の記憶を喪失、②エリは家族を失って生ける屍、③スティーブはストレスをうまく処理できずにパートナーのアナットとの溝が決定的に、④ダナは心理的外傷由来の頭痛に苦しむ、といった傷跡を残していて、ひいてはそれらが国家のトラウマの縮図ということなのだろうと思いました。
「そんな戦いならば止めちゃえば?」と思いますが、対ハマスのみならず、世界各国を巻き込んでの争いは終わる兆しを見せません。トラウマを語ったところで、それらを生み出している状況に変わるところがないため「仕方ないのでは」と思ってしまいます。
不思議の国、イスラエル
私の知人もイスラエルに住んでいまして、イスラエルの人たちすべてが戦争を望んでいるわけではないこと、反戦や反体制のデモや運動も行われていることは知っています。イスラエル国民であってもユダヤ人ではない人もいますし、ユダヤ人とは言っても正統派/保守派/改革派等の立ち位置が違っていて、政治や戦争に対しても異なる態度や見解をもっています。どうでもいいことかもしれませんが、イスラエルはゲイに寛容であり、LGBTQの人たちにとって暮らしやすい国とも言えます(外側からは何かと面倒な国にも見えますが、許容する範囲が狭いというわけでもない)。
一括りにして語りづらく、一刀両断で結論づけられない「不思議の国」、それがイスラエル。訪れた印象では遺跡が素晴らしく、宗教的歴史の刻まれた場所として非常に興味深く、食事はおいしく、リゾートの充実した国でした。
本シーズンでハマスの襲撃対象となった “キブツ” とは①生産的自力労働、②集団責任、③身分の平等、④機会均等という4大原則に基づいて集団生活を送る共同体です。例えば集団で農業などに従事していまして、労働の対価としてお金を得ることがないので(最近は賃金が支払われるようになってきたそうです)すごく簡単に、惜しみなく物を捨てる人が多いと聞きました。一例として、提供されたシャンプーが少しでも気に入らないと、すぐに廃棄して代替品を求めるといったことが比較的普通に行われるようですね(自分のお金で買っているわけじゃないので)。労働の対価を経済面から把握できるような仕組み(“自分でお金を支払って財やサービスを手に入れる” というプロセス)がないと、そのようになっていくのかもしれません。
シーズン6がありそう
公式発表はされていませんが、続編の構想があるようです。
[ロケ地]イスラエル、ハンガリー(ブダペスト) ※ 安全上の理由により、マルセイユはロケ地から外された

